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獣のような
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ライブに来いと無理矢理チケットを渡されたのは、先日のことだった。
ご丁寧に俺の“恋人”の田中に二枚のチケットを持たした。俺が隣にいるにも拘らず、絶対に無理矢理にでも俺を連れてこいと言い置いて去った。
茅野からチケットを握らされた田中は乙女のように頬を染めた。
やはりなんだかんだ言ってはいても、茅野は田中を好いているからこうして接触を計ろうとするのだ、というのが田中の意見だった。
ファミレスでK.Oされて以来、意気消沈していた田中がかくも簡単にチケットという餌で釣れた。もちろん重要なのはチケットではなく、茅野である。
もし、チケットを渡されたのが俺であったなら行かなかった。ライブに興味なんてなかった。正直、邦楽ロックなんて大したものじゃないと、馬鹿にする気持ちが強かった。
俺は行かない、という言葉を呑み込んだのは田中が……、田中が珍しく本気の眼をしていたからだ。
ああ、そうか。
俺は絆されたのか。
口腔内を蹂躙しようとするのを防ぐ為に、確固たる防御壁で侵入を拒んだ。
万歳をするような形で壁に縫い止められた両手首。蹴り上げようとすれば両脚の間に入られた。
噛み締めた歯を舌が撫で上げる。
力だけなら勝てる。
けれど、それをしたら手首が犠牲になるだろう。
舌でも噛んでやろうかと噛み締めていた歯を開きかけたとき、俺を睨みつける眼があった。
「くっ、ほんじょ、は」
目が合う事はあっても間近で見るのは初めてだった。
キスされて、なんのつもりなんだろうかと考えたが、その眼が獣のようなそれで。
ただ、理解したのは冗談でやっている訳ではないということ。
わけのわからない状態で緊張しきっていた身体から、緩やかに力が抜けていった。
そう、俺は絆された。
忍び込んだ舌の熱さに。
俺の手首を掴む震えて冷たい手に。
いつも俺を見ている眼が伝えてくる。
お前が欲しい、と。
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