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スポットライト
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鮮烈な印象だった。
その前の強烈な印象を、まるでなかった事のように拭い去ったのは見事だと思った。
だが、それはライブ後の感想で、見ている時はただただ、音の波に溺れているだけだった。
音に溺れて。
歌に絡めとられて。
闇に盲目にさせられた。
照明一つ点けないままのそこは、光すら闇に溶けてしまうような、そんな恐怖に囚われるようだった。
本庄のバンドが始まるころには、今まで何処にいたんだろうと疑問に思うくらいの観客で溢れていた。
肩さえ触れ合うような距離感で、背の低い田中なんかは息苦しく感じるのでは、と思うほどの人数だった。
それを不快に思う間もなく、室内の照明が落とされる。前のバンドの演奏中にも煌煌と光っていたBARスペースさえも、その存在を消し去られた。
右も左も分からないような、そんな闇の中で感じられるのは隣にいる他人の息遣いだけ。
緊張。
場の空気を表現するとしたらそれが一番合っているだろう。
そこにいる誰もが、一つの音も聞き漏らさないという覚悟を持っているような雰囲気に気圧されそうになる。
やがて、一つの音が弾けた。
そして、次々と。一つ一つの音の粒が厭に楽しげで、真剣で。声を上げようものなら全てが逃げて行ってしまうのではないか、そんな馬鹿な事を考えてしまうくらいには、俺もその場にハマっていた。
いつか聞いた重低音がそれに混ざると自身の中にある、何かが舞い上がるような衝動を産んだ。
音が合わさって音楽となり、声が重なって歌となる。
視覚を奪われたせいなのか、そのほかの感覚が鋭くなっている気がした。この場の全ての音が一心に自分に向かって来ている。俺はそれに絡めとられるように翻弄されるのだ。
はじまりと同じように、一つの音で曲が終わる。
静まり返るオーディエンス。だけど皆一様に興奮仕切った顔をしていた。
俺の身の内から震えるようなそれは、感動だった。
辛い減量に欲求が昂まり、動物的な本能に支配されそうになった時。
試合の最中、自分に向かってくるそれをねじ伏せる時。
全てが終わったときの無に還るような感覚。
俺にしかわからない、そういうものへの渇望。
それを音楽で再現されたようだった。
ふと、チケットを無理矢理渡して来た茅野の言葉を思い出した。
『絶対に来なさいよ。……あなたは絶対、本庄くんに興味を持つ。彼を忘れられなくなる』
大した自信だと思った。からかってやろうかと意地の悪い考えが浮かんですぐに消えた。茅野が大真面目に言っているのに気づいたからだ。
ステージに明かりが灯る。弱い逆光でバンドのメンバーのシルエットが頼りなげに揺れる程度のそれは、けれどオーディエンスを沸かせるのは充分だったらしい。
「すげぇ……」
「……ああ」
誰かが漏らした声に俺は同意した。
今ならわかる。
茅野が言った言葉は大言壮語ではないと。
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