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びよよ?ん、びよよ?ん。
びよよ?ん、びよよ?ん。
なんとも間抜けな音だ。田中を見やると、脂下がった顔でいそいそと尻ポケットを探っていた。
取り出したスマホを見てさらに鼻の下を伸ばす。
「はいっ! 田中でございまぁす!……えぇ、まじでいいの?…あー、わっかりましたー」
ブルーマンデーシンドロームの原因にもなった、長いこと日曜18時半から放映されている国民的アニメの出だしのような応じ方をした田中は、駅に向かっていた体をくるりと反転させると戻り始める。
「おい」
「早く行きますよー」
「なんでだ」
「打ち上げにご招待されまして」
「帰る」
「だめだよ。上からの指示で間宮を連行せよとの御達しだ。よってぼくはどうしても茅野さんとの間に間宮を入れなくてはいけないんだ。ぼくとしてもひじょーに残念なんだけど、間宮には付き合ってもらわなくちゃ」
「俺には関係な……」
「もちろん、ぼくの愛のキューピッドになってくれるよね?」
「……。」
俺が愛のキューピッドなんて柄かよ。我ながら寒気がする。
しかしながら、多少なりとも田中に罪悪感があるために口をつぐむしかなかった。
「さあさあ、行こうねー」
正に、連行される気持ちになった。
ライブハウスに戻ると茅野は他のバンドのメンバーと話し込んでいた。
戻って来た俺たちに気づくと手招きで呼び寄せ、田中と俺を同級生なんだと簡単に紹介した。田中は一瞬沈み込もうとしたが、首を振ると茅野が話していたメンバーに溶け込もうと必死だ。
「間宮くんは楽屋行って待っててくれる?」
頷いて近くのスタッフだろう人物に声をかける。本庄の楽屋は何処かと聞くと引きつった笑顔を返され、疑問に思う間もなく表情を消したスタッフはご案内します、と背を向けた。
あまり大きくはないライブハウスなので楽屋は二つしかないそうだ。案内してくれたスタッフにどうもと礼をすると、口をもごもごさせていなくなる。
楽屋の貼り紙にはノーネームとロリポップキャンディが連名で書かれていた。
一応ノックしてみた。が、返事がない。仕方なしにドアを押してみると、ドアに何かが当たった音と非難の声が上がった。
「つっう! ばっか、開けんなっ!」
「あ、すんません」
慌てて締めると、楽屋の中から酷く焦ったような声が聞こえた。待て、やめろ、ダメだ、どれも同じ人物の声だ。おそらく、俺がドアをぶつけた相手である。緊迫した空気がドアの下の隙間から漏れてくるようだった。
さて、どうしたものか。
「まじ待てってッ!」
田中には悪いがこのまま帰ってしまおうかと逡巡していたら、突然ドアが勢い良く開いた。そこから突進してきた人物に、廊下の壁に叩きつけられる。
背中を打ちつけた痛みに呻いていると、腰にしがみつかれた。腰に回る手から男だと分かるが、頭しか見えないから誰かはわからない。
次いでドアから出て来たのはセーラー服の乱れた金髪の男だった。髪が短くなっていたが、ロリポップキャンディ☆のボーカルだった。その顔に既視感に捕らわれる。見たことがある気がした。
「……? ほん」
「あーあ。あんたが誰か知らねぇけど、俺、責任なんて取らねぇからな」
「は?」
「まぁ、精々頑張りな。……あ、恨むんなら自分の不運にしろよ」
金髪は楽屋に引き返し荷物を持って、そう言い捨てて去って行った。
金髪をただ呆然と見送っていた俺はふと、視線を感じて腰にしがみつく男を見た。
「……。」
「……。」
本庄だった。
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