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初陣
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じりじりと詰まる間合い。
息を呑んでいつ襲いかかってくるのかと覚悟していると、向こうから出たのは手ではなく声だった。
開口したのはセンターにいた五條よりも明るい茶髪のヤンキー。
一歩俺達に近づくと獲物を見つけた蛇のようにじっとりとこちらを睨みつけてくる。
「おい、五條」
「あ?」
「この前、他の奴らに負けたそうだな。それもこてんぱんに」
「……」
「まあ噂でもなんでも、確かめりゃ良いってことだ。お前が弱くなったってな」
「ぬかせこのハイエナ野郎が。前は俺から尻尾巻いて逃げたくせによぉ。ちょっと変な噂聞いたらすぐこれか」
「…何とでも言えよ。勝ったら終いだ!」
それが合図だったのか、全員が襲いかかってきた。中で一番背の高い男が俺に、後の三人は五條を囲うように立ちはだかる。
眼前に拳が飛んできて空を切った。まずは目の前にいるこいつを何とかしなければ。
怯んだらそこで負けだ。五條を護れるはずがない。足手まといにもなりたくない。
相手の攻撃から逃げる様に後に下がれば背中に冷たいコンクリートの壁が当たった。
しまった、しかしこれを逆手に取る。敵のしめたという表情が目一杯に広がり、次いでもう一撃と襲い来る。
タイミングを見計らって俺はその場にしゃがみ込んだ。彼の拳は見事コンクリートにヒット。
いってぇ!と手を押さえてる間に目の前にある脚をすかさず蹴り飛ばす。ふらふらとバランスを崩した巨体が揺れたかと思うと呆気なく地面に尻餅をついた。
このチャンスを逃すわけにはいかない。相手を傷つける事に気が引けたが正当防衛だ。
鳩尾に思い切り蹴りを喰らわせれば、うっという呻き声と共に敵は地面に横たわった。まずは一勝。
五條の方を見ると視線の先で今にも袋叩きに合おうとしていて、一人に羽交い締めされ残り二人に半笑いで何発か殴られている。多数で一人を虐めるとは高校生にもなって卑劣なやり方だ。
ふつふつと沸く怒りを押し殺しながら足音を立てないように腕を振り上げた小男に近づき、そいつの襟首を掴むと膝関節の裏を思い切り蹴ってやった。
倒れかかった男をそのまま隣にいた男に向かって放り投げる。今この場にいる敵は俺よりも小柄だ。
優越感からか、なんだか勝てる気がした。
「いててて…」
「大丈夫か…?」
痛む腹を押さえながら立ち上がろうとする五條の腕を掴んでやる。すると彼はへらりと苦笑しながら横たわる男達を一瞥して俺を驚きの目で見上げてきた。
「お前、強いな…」
五條が弱くなったからそう感じるだけだろうと、返そうとしたが口を噤む。余計な事は言わないほうがいい。
今回はたまたま勝ったが、これまで五條は不良達の間で圧勝して名を馳せている。こいつらみたいに弱くなったという噂を聞きつけ恨みを持っている輩がいつ襲いかかってきてもおかしくはない。
こう言っては彼には失礼だと思うが、この調子だとグループで襲撃にあえば勝ち目は全く無いと言ってもいい。一歩間違えれば命に関わる。彼らにとって、プライドをかけた勝負は生半可な遊びではないのだから。
「…いつも、どれくらいの頻度で喧嘩してたんだ?…」
自分の手を眺めぼうっと放心していた五條はぼそぼそと呟いた。
「週に二回…ぐれぇかな。…毎日絡まれることもあるし」
敵も暇だな事だ。けれど一々相手をするこいつもどうか、と思うが。
声を漏らしため息をつくと、五條も同じ事を考えていたらしく、やべぇな…とうなだれている。
「今の俺じゃ先は真っ暗だな…畜生…」
弱った五條では体力や精神力が持つはずがない。
それは本人が一番良くわかっていることで、悔しがっている姿があまりにも似合わなくて痛々しい。なぜか胸がしめつけられる。
こいつの力に、なれればいいのに。
「手伝う」
護るまでとは言わないから、せめてピンチの時は側にいて力になりたい。逃げる手伝いでも、隠れる場所探しでも、敵を倒す事でも何でも。我ながら馬鹿な提案だと思うが今の自分にできる事はこれしかないと思った。
たった一戦、勝っただけで随分な自惚れだ。
だけど1人より2人のほうがいいにきまっている。一方的にやられている姿を見るなんて目を閉じても耳を塞いでも絶えられない。少しでも力になりたい。例え仮にでも、友達だから。
「アホか」
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