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力の差
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「兵藤!!」
「五條が連れて戦うだけあってどれだけ強ェかと思って警戒してたけど、…大したことねぇなァ。蟻みてぇに弱くなった五條よりか幾分かましかァ」
グワングワンと地面に激突した頭と殴られた腹が激痛で揺れる。とんでもない吐き気と眩暈をなんとか抑え込んで体を起こせば、歪む視界に金髪男の攻撃をバットで受け流すオレンジ髪の姿が映る。
「ご…じょ、」
息をすれば噎せて、痛みは体を侵食していくばかり。ドサリ、と音がして五條の体が地面に伏したことを知る。
倒れて痛がっている場合じゃなかった。
「五條!」
何とか立ち上がって五條の体を蹴り続ける脚から彼を引き上げる。「来んな、馬鹿、」と咳込む姿が痛々しくて涙が出そうになった。
戦い続きで、底を付きそうな体力を叱咤して五條の手元に転がったバットを拾うと、先程の男たちとは比べ物にならないスピードで飛んできた拳を防いだ。金属が腕に当たったのにも関わらず、金髪は眉一つ動かさない。
圧倒的な力の差に、綺麗事は言えなくなった。どんな手を使っても五條を護ることが先決だ。
「っく」
素早い攻撃を躱そうとするが、速さが追いつかない。避け切れなかった蹴りが腰骨を突いて己の体は文字通り吹っ飛んだ。
「なァ、」
顔から思いっきり地面に突っ伏したせいで頬が火傷のように摩擦で擦れた。かけていた眼鏡がどこかへ落ちてしまった音がする。切った唇のせいで口内から塩っ辛い血が滴り落ちた。
意識の遠く、ぼやけて見えにくい視界の端で金髪男のねっとりとした声が反響する。
「どーしちゃったんだよ、五條君。何か変なものでも拾い食いしたのかァ?それとも病気になっちまったか。馬鹿は風邪ひかねーはずなのになァ?」
ケラケラと残酷な笑いがあたりに響く。鋭利な蹴りが起き上がろうとする五條の首を刈った。
後ろに倒れた五條は衝撃に悲鳴を上げて咳込み、胃液を吐き出しながら発作のように息を吐き続けた。
痛めつけられる細い体を目で追いながらまた頭の何処かで声がする。
(お前がかなう相手じゃねェ)
それはさっき聞いた五條の声だったのか、それとも絶望した俺の声だったのか。
「雑魚すら一人倒すのにやっとか、見る影もねェよなァ。マジで心配しそーになっちまうわ。俺につまんねェ思いさせんなよ」
「っぐああああ」
長良田高のメンバーを雑魚だと言い捨てた金髪男はそれでも五條を傷つける事を止めない。まるで彼が力を取り戻すのを待っているかの様に。
力を失った五條に失望したくないという思いが冷酷な笑みを浮かべ続ける金髪から読み取れた気がした。
俺は血を拭って、痛む全身に力を込めた。大丈夫だ、まだ立てる。
ここで踏ん張らないと「手伝う」と言った面目がたたない。この場には自分しかいないのに、一体誰が五條を護るというんだ。
倒れた衝撃で凹んだバットを拾い上げた。金髪男が五條を蹴るのを止め、こちらを向く。
「ッチ、しつけーな、てめぇも」
助走をつけて踏み込めば、人間業とは思えない威力の蹴りが飛んできて打撃を受けたバットが半分に折れてしまい、片割れがどこかへ飛んで行った。
一体この男は何者なんだ。恐怖に本能が危険信号をあげるが、構っていられない。
無意味と化したバットを捨て強く握った拳を相手の顔めがけて突く。あっさりと避けられ空を切った手を掴まれた。
「お前さあ」
「!?」
「考えて攻撃してもあたらねーぞ?」
「なっ」
「なんか型にハマった動きだよなァ」
間近で見る男の顔からは笑みは消えていて、整えられた眉がすっと怪訝そうに寄せられていた。
鋭い視線は俺の目を離させない。握られた腕は指一本動かすことが出来ない。
真剣な言葉は俺の脳内を貫く。何もかも見抜かれた声音だった。
「頭で考えてから手ェ出すんじゃ遅ぇーんだよ、俺には通用しないね。見た所喧嘩交るのは今回が初めてだろ?攻撃よまれてる時点でアンタの負けだ」
——初心者にしてはよくやったんじゃねーの?
笑みと共に再び拳が腹を貫いた。避けることも出来ず今度こそ意識がスパークする。
片腕は情けなく掴まれたままで離れる事も攻撃をすることも出来ない。ただ痛みに堪えるしかない。
立ちすくんだ膝が恐怖で笑っていた。
「っぐ、ぇ、かはッ」
「お前、剣道やってたんだろ?練習通り動いたって実践には通用しねェってことがよく分かった?やっぱ剣がなけりゃダメなんだな。勝てねぇよ」
「…、っはぁ、」
フェードアウトしそうな意識を何とか保ち、漸く目の焦点があった所で相手の言葉を理解した。
そして切った口端から自然と笑みが出た。
「…さい、しょ、から」
「あ?」
「最初から、勝てるとか、思ってねぇよ」
全体重をかけて拘束された腕を振り払った、そしてそのまま相手のシャツの胸倉を掴むと引き寄せる。
ただ俺の動作を見ていた金髪は「悪足掻きを」と呟く。
確かにそうだと自嘲する。けれど今はその足掻きに頼るしかなかった。相手が言う、練習通り以外の手腕に。
「…隙さえ、あればいいんだ。鬼みたいな奴から、五條を逃がす隙さえあればなッッ」
自分の石頭に生まれて初めて賭けた。
奥歯を食い縛りゴツンと相手の額に己の額をぶつければ予想以上の効果が得られた。
声にならない声を上げて痛がる相手にすかさずもう一撃与える。
動きの止まった金髪男から一目散に離れて倒れたままの五條の元へ駆け寄った。
逃げる。
今はそれしか無い。脳震盪を起こしていない自分の頭にこれほど感謝した日はない。
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