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兵藤医院
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五條を連れ、大通りを歩いて20分程たった。
普段ならもっと早く着いたんだろうが、お互い怪我をしていたので時間がかかった。ようやく馴染みの看板が見えてきて、それに気づいた五條は「兵藤医院?」と呟く。
「お前ん家、診療所だったんか」
「いや、叔父さんの家だ。高校に通う間、ここにお世話になってて」
民家と言うにはふたまわり以上大きい建物に近づく。自動ドアから漏れる明かりがやけに眩しい。スッと開いたドアから二人一緒に中に踏み込めば、院内から独特な匂いがする。音に気付いた叔父さんの奥さん、涼子さんがカウンターから顔を覗かせた。
「あら?直人くん?おかえりなさ…まああ!」
バタバタとスリッパを鳴らして近付いてきた涼子さんの顔は真っ青だった。
「どうしたのその怪我!」
「あ、ちょっと」
「ちょっとじゃないわよ!そっちはお友達?」
「ウッス」
「さっさと靴を脱いで上がりなさい!」
二人分のスリッパを出してくれた涼子さんは慌てて診察室の奥へ消えた。遠くであなたー!と呼ぶ声が聞こえる。
五條はぽかんと口を開けたまま差し出されたスリッパに脚を通していた。突っ立っている彼の背中を押して奥へと促す。
幸い、待合室には他の患者の姿は無かった。
「恐がらなくても、2人とも優しい」
緊張しているのか、固まっている五條に声をかければムスッとした返事が返ってきた。
「べ、別に恐がってねぇよ」
「何してるの、早くこっちへ来なさい」
診察室から涼子さんが手招きをしている。促されるまま中へ入れば、部屋の中央を仕切っていたブルーのカーテンがシャッと引かれ叔父さんが顔を出した。
「おやまあ、派手にやらかしたんだねェ」
ボサボサと絡まった黒髪を掻きながら目を丸くした叔父さんは傍にあった回転椅子に座ると、診察台に座るよう促す。
俺達2人を頭から脚先まで観察すると、目じりを細めて笑った。背後で涼子さんがせっせと包帯やお湯の用意をしている。
「直人くんは大人しい子だと思ってたんだけどねぇ。2人で喧嘩したのかい?」
「いや、そういう訳じゃ」
「俺が、兵藤を巻き込んだんだ。すいません」
ギュッと膝の上で拳を握りしめた五條を見て、五條は悪くないと呟くことしか出来なかった。
五條は悪くない、ともう一度頭の中で繰り返す。彼は止めてくれたのに俺が意地を張って勝手に飛び込んで勝手に怪我をしただけだ。
「まあ男の子だし、元気があってよろしい。けど、もうちょっと体のことを考えなさいよ」
苦笑しながら腕を捲る叔父さんは首から聴診器を外して俺たちの前に立った。
「はい、じゃあさっさと手当てしちゃおうか。ほら、脱いだ脱いだ」
「えっと」
行き成り脱げと言われて戸惑う五條に涼子さんが半笑いで彼のシャツに手を掛ける。
彼女の背後には2人の看護師が包帯とガーゼを抱えて面白そうにこちらを見ていた。
「いいです!自分でできます!」
「はいはい、上も下も全部脱ぎなさい。恥ずかしがってんじゃないわよ。脱いだらこの布巾で全身拭きなさい。」
「あちゃー、こりゃあ酷いねぇ。打撲がこんなに…ああここは罅がはいってるかもしれない。レントゲン撮らないとね」
「いッッだだだだァァァ!!!」
すべての治療が終わり、包帯やガーゼで覆われた体から伝わるじくじくとした痛みに堪えつつ俺と五條は呆然と叔父さんの説明を聞いていた。
「五條くんだっけ?前に怪我した傷も癒えないのにこんなやんちゃして、元気だねぇ」
「じょ、丈夫だけが取り柄ですから」
「強いねえ」
「いえ……」
「そんなことないっす」と首を振った五條に叔父さんは充分だよ、と俺達二人のカルテを交互に見る。
ちらりとこちらを一瞥した彼は小さく首を傾げた。
「入院してもいい傷だけど、どうする?まあ直人くんは今まで通りお部屋で休んだらいいし」
「い、いやあ…。母ちゃんに怒られるし…入院は…」
「そう?包帯で歩きにくいようだったら松葉杖出すよ。」
「うげー」
苦々しい声をだした五條を叔父さんはピシリと説得する。
「それだけの負担を体にかけたんだよ?君たち気合いで帰ってきたようなもんなんだし」
「仕方ないな」
俺とは違い彼はまだ不満気だった。
「それにしても、君たちをコテンパンに叩きのめした男の子も相当強者なんだね。同い年なんだろ?」
五條はゆっくりと頷く。途端に表情が険しくなった。その面持ちを見ながら己の額に張られた絆創膏に触れれば、ズクリと傷が疼いた。
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