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兵藤医院2
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鬼のような強さを見せつけた金髪男が何者で、五條と一体どういう関係であるのか俺は知らない。「同い年ねえ…」と首を捻る叔父さんも不思議そうな表情だ。
2人の関係を聞いても罰が当らないだろうか、と恐る恐る尋ねてみれば苦々しいながらも五條はあっさりと答えてくれた。
「あいつは、俺の幼馴染だ」
返答内容に俺も叔父さんも驚いた。
幼馴染といえば普通、仲がいいものでは無いだろうか。なのにここまで五條を傷つけるとは。
俺たちの疑問を読み取ったのか、彼は渋々と言葉を紡ぐ。
「負けず嫌いなあいつは昔っから俺に勝負を挑んで来てさ、ホント馬鹿だよな。毎日のように喧嘩に追われてたのはあいつのせいっていっても過言じゃねえ」
俯いて、首に巻かれた包帯を撫でながら彼は地面に向いて言葉を放つ。記憶を辿って懐かしんでいるようにも見えた。
「あいつは俺のことが嫌いで、俺もあいつが嫌いだ」
途切れた声はそれ以上続くことは無く、訪れた沈黙を切ったのは叔父さんの「難しいねえ」という呑気な感想だった。
俺たちを深く追及する事もせず「自分たちの事は、自分たちで解決しなきゃね」とも言う。
そして言い聞かせるように頷きながら胸ポケットに挟んでいたボールペンでカルテに何か書きこんだ。
「他に痛むところは無いかい?」
「全身痛くて、もうどこがどう痛いのかわかんねぇっス」
「ハハハ、何かあったらまたここへ来なさいね。直人くんも、遠慮せずに言うんだよ」
「はい」
「そうそう、せっかくだから自己紹介しておこうか。五條くんも暫くここへ通うことになるんだし」
思い出したように立ち上がった叔父さんはクリアファイルから名刺を取り出すと何故か嬉しそうに手渡した。
「直人くんの叔父の兵藤兼次です。ここの医院長です」
「あ、はい、どうも。えっと、ご、五條龍牙です」
あたふたと受け取る五條を微笑ましく見ていると、名刺に書かれている文字を眺めていた彼が急に何かに弾かれたように顔を上げた。
「あの!…人間って、いきなり弱くなるってこと、あるんですか?」
凄味のある五條の問いに、叔父さんは僅かに静止した。そして言葉の意味を探ろうとゆっくり首を傾げる。
「えっと…俺、最近急に力が、体力がなくなって、今までできたことが出来なくなって…」
それは俺も知りたい事だった。医者の叔父なら何か分かるかもしれないと二人して見つめる。一方の彼はううん?と首を捻るばかりだ。そして徐に己の顎に手を添えつつ、視線を自身の膝に移した。
その様子にどこかじれったいのか、五條が次々と質問攻めにする。
「握力とか今まで余裕で100キロ振り切ってたんですけど、弱くなってからは20キロしかなくて…」
意外な事実に俺自身がショックを受けてしまった。五條の力は今までの5分の1以下にしかならないということだ。
「ふん…体を構造するパーツを損傷すれば必ず支障がでるんだ。神経とか筋肉とかね。今の君たちの様に怪我をしたりとか。そういう外部的な事じゃないのかな?」
「いや、その、怪我をしたからじゃなくて。ある日いきなりスーッて力が抜ける感じなんです。拳を握った感じがいつもと違って、力が入らねぇ。そのまんま弱くなった感じで」
「聞いたこと無いなぁ…。力が無くなった以外に体に変化はないかい?他に出来なくなったことは?」
「今のところ、力が出ないだけなんです。日常生活も変わりねえし。問題は喧嘩で…反射神経はそのままなのに、頭に体がついていかなくなって。思うように…」
ますます分からないぞ、と呟きながら叔父さんは試案に更けるも割り切った様に顔を上げた。
「脳に何か問題があるのかも。無意識のうちに記憶や力をセーブするっていう事例はあるからね。五條君みたいに極端な例は初めてなんだけども。怪我が治ったら検査してみる?僕は外科だから、他の問題だったら別の先生にも診てもらわないと分からないかもしれない。一応友人に相談はしてみるよ」
「…お願いします」
五條は納得したような、し切れないような複雑な表情を浮かべた。丁度その時、診察室のドアが開き、息を切らした涼子さんが二つのリュックを持って入ってきた。
鞄を道端に置いてきたという会話を聞いた彼女は、治療中だった俺たちを一言ずつ叱ると風の様に探しに出てくれたのであった。
「あったわよ、この二つであってる?」
見覚えのある黒と黄緑色のリュック。ずっとあの場に放置していたのにも関わらず無事に帰ってきたことに全員が安堵した。
「それっス!ありがとうございます!」
手を伸ばした五條に黄緑色のリュックを押しつけた涼子さんはもう、と不満げに文句をぶつける。
「お財布盗られてないか確認しなさいよ?いくら焦ってたからってあんな所に置いてくるなんて」
まったくもって返す言葉も無い。中身を確認すれば一切盗られた形跡は無く、何度も頭を下げる俺たちに叔父さんは「土下座して謝らないとだめだぞ~」と回転椅子を揺らして笑っている。
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