アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
金髪の接近
-
ほぼ毎日喧嘩をしていると言っていたのに、この二週間一度も不良達が五條を襲ってこなかったことを疑えばよかった。と、今更ながら後悔した。
たまたま委員の呼び出しで五條と一緒に帰れなかった放課後。俺は誰一人と居なくなった下駄箱で靴を履き替えた。玄関を出ようとした時、夕日を背に建物の影から1人の男が突然目の前に立ちふさがった。
赤い光を反射して煌めき透き通る金髪に思わず息を呑んでしまう。
「兵藤クン?」
男が僅かに首を傾げてこちらを見上げる。俺の耳の中に直に響いた声音は聞き覚えがあった。見覚えのある金髪にねっとりとした口調。忘れるはずもない。
相手の正体に気がついた時には己の体は一歩とならず五歩以上後退していた。どうやら彼とは二週間ぶりの再会だ。
キツネの様に細められた目に見つめられ、全身の血が凍る。恐怖に怯える俺の様子を見て、ニヤリと笑む五條の幼なじみはポケットに手を突っ込んだまま一歩、また一歩と近づいてくる。
「そんな警戒すんなよぉ、今日はヤりに来たわけじゃねェから」
襲撃が目的では無いと言うのなら、一体こんな所まで何しにきたのだ。用があるのは既に帰宅してしまった五條ではなく俺にだと言う。どうやら待ち伏せしていたらしい。
警戒するな、と言われても一度喧嘩をして五條と俺に大怪我を負わせた張本人である。簡単に相手の言葉が信用出来るはずもなく俺は身構えた。
「だーっから、何もしねェってば。それに今日は1人で来た」
何人で来ても問題だ。
「もー、直人くぅん」
一向に警戒を解かない俺に痺れを切らしたのか、そわそわとその場で足踏みをして笑いながら俺の名前を呼ぶ。…名前?
「何で、」
「ん?」
絞るように言葉を発した俺にわざとらしく小首を傾げる金髪。次いでああ、と唇に笑みを浮かべ自身の髪を軽く掻き上げて見せた。初めて合ったときとは違い、下ろされた髪型に年相応の幼さが出てて今日は僅かに落ち着いた雰囲気だ。しかしそんな感想を述べてる場合じゃない。
「名前?なーんででしょ〜う」
ニヤニヤ。と、かも楽しそうに笑う。
一体どこで漏れたんだろうか。
「それよりも、」と金髪は言葉を続ける。
「今日はお前に話があるんだよ」
必死の説得で渋々承諾した俺は、彼を連れて中庭のベンチへ場所を移した。春には満開の桜が一望できるそこは校内でも指折りの人気スポット。しかし今はそこに誰も居ない。
風で揺れる木立の音が心地いい。蒸し暑い気温も、日が落ちて木の葉の影を落とすここはどの場所よりも幾分か過ごし易いだろう。遠くからグラウンドで部活動をする生徒達の声が時折響く。
ベンチの上に落ちた葉を軽く払うと、そこへ腰を落ち着かせた金髪はよく見れば手ぶらだ。隣りに座れと促されるも、未だに躊躇う俺に「何にもしないってぇ」と、座面をバシバシ叩いて笑う。
彼の馬鹿力ではベンチが壊れてしまうのではないかと無駄な心配をしてしまった。
仕方なく己のリュックを金髪男との間に挟んでからようやく腰をおろした。
「二度目まして、中島敦です」
ニッコリとつりあがる口元がどこか怪しい。そして俺の方へ差し出された手に我が目を疑ってしまった。
握れ、という事だろうか。
こっちの名前は一方的に知られているようなので名乗る必要は無いだろうが…握手をするなど、一応敵だというのに不用心ではなかろうか。
昨日の敵は今日の友と言わないわけでも無いが、この話が終わればまた殴りにかかってくるかもしれない。しかしここで手をスルーすれば俺はなんとも冷たい人種になるだろう。
藪から出てきた蛇をつつくかの様に恐る恐る手を差し出してみれば勢い良く、力いっぱい鷲掴みされ、度肝を抜かれぎゃあと間抜けな声を出してしまった。
そんな俺の様子がさぞかし面白かったのか一頻り笑われ恥ずかしさに顔が熱くなった。こいつは怖がる俺をいい事に散々からかって遊んでいる。なんて奴だ。
「でさあ、」
笑顔を絶やさないまま、不意に声のトーンが落ちたかと重うと、話はいきなり本題に入った。
「五條って何で弱くなったワケ?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 50