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体育
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案の定すっかり機嫌を損ねてしまった五條にかけてやる言葉を練っていたら突然、後ろから肩を叩かれた。
「はよーっス、五條は何怒ってんの?」
五條が放つ険悪なオーラを物ともせず現れたのは同じクラスの枷村。彼とは一年の時から親しく、俺が最もよく話す友達の中の一人。機嫌が悪い理由をどう話そうか迷っていたら五條が先に「なんでもねェよ」と答えそっぽを向いた。
ふうん、と枷村は大して気にもせず次に俺の顔を見て「ん?」と声を出す。
「結局眼鏡に戻したのか。コンタクトの方がいいのに」
「そうか?」
そんなに眼鏡がよくない理由は何だろうか。その疑問に枷村はすかさず答えてくれた。
「直人さぁ、眼鏡かけてると表情の変化が読み取りにくい。ただでさえあまり喋らねえのに」
「ああ…」
「そうな、コンタクトの方が何考えてるか分かり易い」
表情を僅かに険しくしたまま五條が割って入る。
なる程、微妙な顔の変化までよく見えるという事だろうか。目は口ほどに物を言う、というし。
「印象もいいよ、ない方がサッパリして可愛い」
枷村が悪戯っぽく笑って俺の眼鏡に手をかけ、そのまま取り上げた。視界が揺れ、近くにいるはずの二人の顔が僅かにぼやける。見えづらい辺りに不安を覚えながら目を細めて眼鏡を取り返す。
「可愛くない」
「あー確かに、今の顔は可愛くない」
「誰のせいだ」
「険しい顔してると可愛くないぜ」
「ほっとけ」
可愛い、可愛くないと言いながら枷村に指先で眉間の皺を無理矢理伸ばされて嫌々と首を振る。大体、可愛いの使い方が間違ってる。
「そういやさぁ、」
話題が変わって枷村がチラリと時計を気にしながら表情に疑問を浮かべた。
「今日から体育水泳だけど、お前ら入れんの?」
五條と俺はあっ、と顔を見合わせた。もちろんドクターストップのかかったこの体の傷はプールに浸ってはいけない。
照りつける太陽の元、三時間目の授業は水泳。
見学を余儀なくされた俺と五條は屋根の下、水しぶきをあげて泳ぐクラスメイト達を眺めながら二人仲良く並んで見学用紙に文字を書き込む。
黄色いTシャツに黒のハーフパンツを履いた体育教師は飛び込み台の上に片足をかけてホイッスルを片手に「クロールぐらいしっかり泳がんかァァ」と怒鳴り散らしている。
さすがに男だけだと容赦無い。教師の綺麗に毛が無くなった頭皮に太陽光が反射してキラリと輝いていた。
俺は別に構わないのだが、水泳も得意らしい五條はつまらなさそうに見学用紙の端に落書きをしている。
かわいそうだと同情すると同時にふ、と視線を前に戻せば誰かがこちらに手招きをしていた。黒いゴーグルに水泳帽を被っていれば遠目では判断できない。
何だろう、とプールサイドに近づけば、どうやら水面から顔を出して手招きしていたのは枷村だったようだ。
「何だ?」と声をかけてしゃがみこんだら、これが返事だと言わんばかりに水しぶきが飛んできた。顔面が濡れる。呆然とする俺に枷村が「引っかかったー」と。
引っかかった…だと?
仕返しだと枷村の頭を掴んで水中へ沈めてやった。そうすれば周りにぞろぞろと野次馬が集まってきて多方向からまた水しぶきを掛けられる。雫が眼鏡を濡らして視界が悪くなったので怒りを抑えながらジャージで拭いていたら周りがニヤニヤと笑いながらヤジを浴びせてきた。
「濡れ場か兵藤」
「ヒュー」
「お前ら…」
「いやーんセクシィー」
懲りずに出てきた枷村が唇を尖らせながらわざとらしく艶っぽい声(?)を出す。その様子が余りにも気持ち悪い。ゲラゲラと周囲が笑い声を上げていたら俺の横から五條が低い声を響かせて近づいてきた。
「てめェら…順番に沈めてやろうか…?」
「きゃー、五條くんよー」
「こわーい」
「龍牙くーん」
遠くから聞こえる裏声も、紛れもなく男の物だ。五條の登場によって口笛が一層に鳴る。そしてバシャリ、飛んできた水が避け切れるはずも無く。しっかりと濡れた五條は側にいたクラスメイトの頭から手当たり次第に水面へと沈めていく。その様子はまるでモグラ叩きのようで。
本当は体を濡らしてはいけないのに五條は楽しそうにはしゃぐ。暑い中俺達はジャージを着ているので幸い怪我には濡れていないが。
「くぅおおら、遊ぶなァァ!」
突如怒声が飛んで、油を売っていた枷村達が「やべえ!」と、まるで網から逃げる魚の様に散り散りに水中へと潜っていった。体育教師が向こう側でホイッスルを振り回しながら叫ぶ。
「病人に手ェ出すな馬鹿モンがー!」
その言葉に五條が反応した。
「病人じゃなくて怪我人だジジィが!!」
「ああ!?誰がジジイじゃァァ!大人しくしとれこの馬鹿モンがァーってェ、ンのにかんのかァッ!アハハハハハハ」
「何言ってんのかわかんねーんだよハゲェェ!!」
「しばき倒すぞぉ!!」
そうして俺と五條は大人しく屋根の下へ戻る。再び見学用紙を書く作業に戻っていたが、数分も経たないうちに五條は用紙と鉛筆を傍らへ投げ出すと溜め息を吐き出しながら背もたれへ身体を預ける。
「なあ」
かけられた言葉に俺は用紙に最後の句点をうってから彼の方へ振り返った。
「俺って何で弱くなったと思う?」
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