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逃げよ獅子
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side五條
まいても撒いても、ハイエナのように群がってついて来やがる。力が弱まった獲物を前に、くたばる瞬間を見逃しまいと。
最近は必要最低限、外出を控えていた。兵藤にも兵藤の叔父さんにも口酸っぱく言われていたからだ。それを破って下手に出歩いたせいで大怪我でもすれば迷惑をかけてしまうから。
幾ら俺のプライドが減ろうが、恩の為には護らないといけない。余計な火の粉を避ける為。だから、大人しくしていたのに。
「よりによってパシりかよ!!」
手にぶら下げたビニール袋に入っている数個の菓子類とペットボトル。それを何度も怒りに任せて叩き捨ててやろうかと思ったが、金を溝に捨てるようなもの。
休日は仕事で疲れた羽を伸ばしまくる姉は妹や俺をダシに使ったりパシりに使ったりと何かと傲慢だ。しかしお小遣い面ではお世話になっているので妹共々頭が上がらない。特に俺は尻にしかれているので逆らえるはずもなく。
喧嘩に巻き込まれるから嫌だと言ったのに「アンタ強いんだからいいじゃなぁい。いつもみたいにぶっ飛ばしてくりゃぁいいでしょぉ」と、姉は俺の身に何が起こっているのかを知ったこっちゃない。
そもそも家族全員に話していないから当たり前だ。相談した所で笑い物にされる。どうせウチはそんな所だ。結局くだらないプライドを捨てきれないまま、使いっパシりで外へ出たのはいいのだが。
「いたぞ!」
「またかよッ」
コンビニから出た瞬間、待ってましたと言わんばかりに辺りを囲んできた不良達から逃げ回っている今。いつもなら軽々あしらって堂々と道の真ん中を歩いて帰ってやるのによぉ!
建物の影から、通り過ぎていった不良共を見送ったのを確認してその反対方向へ抜ける。通行人を避けながら、振り返れば指を差して俺を追いかけてくる男達。まったく、日曜日だというのに暇な野郎共だ。しかしいよいよやばい。
角を曲がった瞬間、地獄は訪れた。前方には通せんぼをする残りの不良達。振り返れば息を切らしながら詰め寄ってくる不良達。とうとう囲まれた。
「つーかまえたァ」
不意に後ろから肩を掴まれ、反射的に腕を振り払ったら衝動で袋の中身の菓子がこぼれ出た。それを見た不良は半笑いで俺と菓子を交互に見る。
「シュークリームゥゥ?」
そうだ、紛れもなくシュークリームだ。
「てめェ、そんな甘ェもんばっか食ってるから弱くなっちまったんじゃねーのかァ?」
「ッるせえよ、俺じゃなくて姉貴が食うんだっつーの」
地面に落ちたシュークリームを手早く拾って袋の中に戻し、俺にタイマンを張る不良に向き直る。不良は憐れむような瞳を向けてきた。
「姉ちゃんにパシられてんのか?かわいそーだなァええ?」
「ああ?」
辺りに笑いが広がった。俺を嘲笑っていやがる。実際、尻にしかれてんのは事実だが改めて言われると癪に障る。しかもよりによってこいつらに言われると余計にだ。怒りを押さえないといけないのは分かっている、だけどこうなったのは全てアイツの…姉貴のせいだ。
「姉貴はなァ、俺の百倍強ェーんだぞコラ」
一瞬不良共はどよめいた。当たり前だ、かつて最強の名を響かせた俺の姉なんだから。そりゃ想像も広がるだろう。
「俺の姉貴なんだから、美人じゃないわけねーだろ」
更にどよめきが広がる。目の前の男も俺の言葉に息を呑んでいるようだ。ざまあみろ。姉は弟の俺からしてもそこいらのモデル並みのレベルはあると言える。と思う。
「それになあ…姉貴の乳はFカップだぞオラァ」
おおっ、と不良共達から我を忘れたような感嘆とどよめきが上がった。こんな所でお使いの腹いせ(?)に引き続き姉自慢をしている場合じゃなかった。男達が浪漫に浸る中、その隙を見て逃げ出そうと進めば、いち早く我に返った男に腕を捕らえられた。
「もう少し姉ちゃんの話してくれやァ、五條くん」
そうして逃げ出せないまま俺は連れ去られる宇宙人のように引き摺られた。人気の無い造船所の跡地へ投げ込まれる。日当たりが悪くじめじめとしたここは錆び付いた鉄屑や鉄板、古びたネジが当たり前に転がっていて薄気味が悪い。遠くで消波ブロックを打つ波の音が聞こえる。
乱暴に地面へなぎ倒されれば、袋から嫌な音がした。きっとシュークリームか何かが潰れてしまったんだろう。
「五條くーん、今までの落とし前はどうやってつけてくれんのかなァ。お前の姉ちゃん紹介してくれるだけじゃ足んねーぞ」
「うっ」
起き上がろうと手を動かせばそのまま手の甲を踏みつけられる。面倒くせえ、厄介事にしたくねーのに。グリグリと手の甲を踏む脚に爪を立てて無理矢理退かすと、二撃目を喰らわぬうちに何とか立ち上がる。
「ったくよォ、面倒くせぇーんだよてめェら。俺に構って無いでさっさと姉貴のアドレスぐらい聞きにいけよ」
「メアド聞きに行くのはお前をヤッてからだ」
「ぼやぼやしてっと他の男にとられちまうぞ」
「だからさっさと終わらせてやるんだよ」
「…どんだけ俺の事好きなんだてめーらはよ……」
軽く擦り切れた手を撫でて、いっこうにその場を動こうとしない不良共に逆に感心しそうになった。こういうとこは無駄に真っ直ぐだからダルい。
前に負った傷はほぼ完治してるけど、万全じゃない。それに力も普通の女子並み。相手はざっと20人。勝算は0。周りを囲まれて逃げ道も0。どうする俺、と一歩後退すればカランと踵に錆びた鉄材が当たった。
決して長くも丈夫そうでも無いが、武器にはなりそうだ。それを拾い上げて相手に突き出すように構える。そうすると周りの不良共も一斉に身構えた。全員を相手にしないで、逃げ道を作ればいいのだ。
弱そうな奴を適当にチョイスしてそこから突破口を作る。踏み出した砂利の音を合図に喧嘩は始まった。
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