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距離
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side五條
敦のいたあの場所からようやく抜け出すと兵藤は壁に立てかけてある自転車に近づいた。それを起こすと握っていた刀袋を背中に背負う。
「お前の?」
「ああ」
兵藤の瞳と同じ色をした黒塗りの自転車。前かごに乗せてある荷物を見て、俺は疑問を投げかけた。
「どっか行ってたのか」
「ちょっと市外に。その帰りに走り回る不良達を見つけて、まさかと思って追い掛けたらやっぱり五條の事話してて。…もう少し早く来れたら、」
「いや、充分助かったから…」
話しながら苦笑を浮かべた兵藤はハンドルを押して俺の前に自転車を止めた。
「乗れよ。家まで送るから」
「え?」
ポンポンと荷台を叩く手を見て狼狽えてしまう。まさか二人乗りか。
「いや、いいって!」
「その脚で帰れるのか。また不良達に捕まったら逃げ切れないぞ」
確かにその通り。
「これに乗って家まで帰るか大人しく叔父さんの所に行くかの二択だ」
「他に選択権はねえのかよ!」
「無い」
きっぱりと言いのけられ、仕方なく自転車の荷台に跨った。難なく不良20人を倒してしまったこいつに今の俺が適うはずもなく。納得した兵藤はペダルに脚をかけ、回転させるとゆっくりと発進した。
車輪に脚を取られない様に折り曲げてつま先をハブの外側へそっと引っ掛ける。空は少し日が傾きかけ、夏の日差しは幾らか和らいでいた。裏路地を抜け人通りの多い道へ出ると心地よく頬を撫でる風が少し火照った体に心地いい。
(また守られちまったなあ…)
期待していたわけじゃないけどやっぱ頭のどこかで助けを待っていたのか?
今日の兵藤はタイミングが良すぎだ。ぼうっと前を見たら大きいようでそうでもない背中があって、同い年で身長もあまり変わらないはずなのに体格はここまで違うものなのかと実感する。
初めて会った時から今日まで半年くらいしか経ってねえのにもう随時とこの背中に頼ってきたように思えた。
他のダチに兵藤以上に長い付き合いの奴はいるけど、お互いに干渉し合わない部分を持ち合わせていた。その距離が俺には丁度いいと思ってたからだ。なのに目の前で自転車を漕いで俺を運ぶこいつはどこか他の奴とは違う気がする。
そういえば出会い方も少し変わっていたんだった。
だからとは言わねえけど、今まで張っていた境界線の中についうっかり自ら招き込んでしまうほどに他には感じさせない物を持っている。
口数は少なく自己表現をしない割には隔たりを感じないし、それは側に居るだけで感じる優しさか、大人びた雰囲気か包容力か。何にせよ俺は兵藤に今までになく信頼を寄せている。大嫌いな奴が兵藤と打ち解けていたのを見て嫉妬してしまうくらいには。
ふと、今まで全く気にもしなかった単語が浮かんだ。俺は一度もその相手に巡り会った事が無い。
親友、ってのは一体どれくらいの距離を言うんだっけ。
たかが付き合いは半年、でも二度以上も命を救ってくれた恩人。兵藤が俺の事を一体どういう風に思っているのかは分からねえし、兵藤自身にも干渉されたくない所はあるだろうけど例え一方的でもこいつだけは他の誰よりも、もっと仲良くなりたい。
今は守ってもらってばっかりだけど、今度はを守ってやりたい。そのためにも力を早く取り戻したいのに。
「兵藤、」
「ん?」
「ありがとうな」
助けてくれて、ともう一度背中に投げかけてみれば、振り向かないまま「ああ、」と小さく返事をした。その声音はどこか照れた様子を含んでて、俺は気づかれないように笑った。その時、自転車が道路の段差を踏み越えてガタンと振動した。気を抜いていたために後ろに落ちそうになって思わず兵藤の腰にしがみつく。
「っと」
「捕まってろ」
刀袋越しに回した腕に収まった腰は、見た目以上に細かった。頼りになるのにそれでもどこか不安が消えなくて、兵藤の言葉のままに俺は手を離さないでいた。端から見れば変な光景だろうが、そんなことは気にしていられなかった。
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