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寄り道
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「あーそこそこ、そこ右」
「右?」
あの造船所から五條の家に向かって急いだ。漸く住宅街に入り、五條の指示の元、右へ左へと曲がりながら辺りを見回す。
この住宅街へ来るのは初めてで、茶色い洋風の家が多いなと思っていたら後ろから「ストップ!」と声が響いたのでブレーキをかけて急停止すると五條の頭が俺の背中にごつん、と当たった。
そこはシルバーのボックスカーが車庫に止められている家の前で、淡いベージュの煉瓦っぽい壁に赤茶の屋根をしたヨーロッパの郊外を感じさせるオシャレな家だ。後ろの荷台が軽くなって、五條が降りたのを感じた。ここか、ともう一度まじまじと家の場所を確認してから俺は自転車を方向転換させる。
すると五條は別れを告げる前に俺の服を掴んできた。
「よっていけよ」
彼は親指で家の扉を指す。さも当たり前の様に言うが、五條宅にお邪魔をしにここまで一緒に来たわけではない。
「いや、いいよ」
「良いから、礼だって」
「ええ?」
「いいからいいから、せっかく来たんだしよ」
「そのつもりで来た分けじゃ…」
まるで駄々っ子のように笑いながらせがんでくるので仕方なく少しだけだ、と自転車を車庫の中に停めさせてもらった。
連れられるまま、五條は扉を開けると「ただいまー」と気怠げに誰もいない玄関に声をかける。するとパタパタと足音が聞こえてすぐ側の扉が勢いよく開いた。
「遅ーい!!」と中からでて来たのは五條よりも数段と明るいロングの髪を垂らした女性だった。
五條とそっくりな面影を残した彼女はショートパンツに二枚ぐらい重ねたデザインのタンクトップの出で立ち。体のラインが強調されて涼しそうと言えば涼しそうだが、いくら7月とはいえこの格好は露出が多すぎるのではないだろうか…。
その女性は、口にくわえていたアイスキャンディーを外すとその先端を五條に向けた。
「コンビニに行って帰ってくんのにどれだけ時間かかってんのよぉ!」
「喧嘩に巻き込まれたんだよ…」
「さっさと片付けてくりゃあ良いでしょ?どこで油売ってたのよ!」
「姉貴…」
若干鼻にかかった柔らかい声で五條を叱咤する人は、どうやらお姉さんらしい。まだ文句を言おうとした彼女に、五條は遮って俺を指で差した。
「友達来てるから」
「お邪魔します…」
「あらぁ」
ようやく気づいてくれたお姉さんは文句を言うのを止めてまじまじと俺を頭から足先までじっくりと観察する。そして驚いたように声を上げるとさっきまでの不機嫌さは何処へやら、彼女は瞬く間に笑顔になった。
「可愛いじゃなぁい」
「「はァ?」」
その一言に俺と五條は思わず耳を疑った。前にも言われたような気がするが、どういう意味での可愛い、だろうか。どちらかといえば、五條の方がまだ許容範囲内だろう。
身長も体格も俺の方が大きいし、顔も整ってるわけじゃない。ふ、と横を見れば靴箱に備え付けられた鏡に自分が映っている。そこにはただ間抜けな顔をしている己の姿しか無い。
お姉さんは持っていたアイスキャンディーを一気に食べてしまうとバシバシと五條の背中を叩く。
「アンタ女は連れてこないし、たまに友達連れてきたと思ったらむさ苦しい男ばっかりだったのに、何よ~こんな可愛い子いるなら何で早く連れてこなかったのよぉ」
「姉貴…」
「やだ、だったら早く言ってほしかったわ!あたし今部屋着なのに、もー!」
「いつもと大してかわんねぇよ…」
そんな二人のやり取りを複雑な心境で見ていたが、ようやく腕を引かれて「行こうぜ」と促された。五條は彼女によれよれになったビニール袋を押し付けて階段を登る。その後に続いて、通りすがりにお姉さんに会釈をすると彼女はにっこりと笑って小さく手を振ってくれた。
その笑顔を見てうっかり綺麗な人だな、と口に出してしまいそうになる。階段を登りきった時、下から「ぺっちゃんこじゃない!」という悲痛な叫びが聞こえて五條の顔を見たら、彼はぺろりと舌を出して肩を竦めた。
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