アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
内緒話の内容
-
*
「あの時、あいつに何言われたんだよ」
スニーカーに履き替えて、更衣室から灼熱地獄のようなグラウンドへ出ながら、五條は俺と目を合わせずにぶっきらぼうに言った。はて、あの時とはいつの事だろうか…記憶をたどりながら歩み教師のいる元へ向かう。
「敦に…」
そう言いかけて五條は口を噤む。中島の名前を聞いてようやく思い出した。あの時というのはどうやら造船所での事。中島が俺に耳打ちをした内容を聴いているのだ。それにしても五條から彼の名前を出すとは、明日は吹雪にでもなるのではないだろうか。
「大したことじゃない」
そう返せばキッと振り向いて不満げに小さく唇を尖らす表情が見えた。眉間には深く皺が寄っている。俺の返事が気にくわないのか彼は唸り始めた。しかし、あの内容は本当にくだらない事だったのでわざわざ五條に言う必要も無いのだ。
「くだらない事を言われたんだ、」
「だから何て」
「何って…」
意地でも聞き出すつもりらしい。こっちとしてはあんな内容をわざわざ言いたくない…渋れば運良く集合がかかって授業が始まった。
今日の体育は水泳ではなくグラウンドでテニスをする。いつも通り他クラスと合同で男子のみの体育。今回は女子がプールで水泳をしている。
一通り体操を終えた後、教師と体育委員が人数分のラケットが入った籠を取りに行ったのを見計らって、いきなりムードメーカーである谷川が近くに見える更衣室の上に設置されたプールを向いて愚痴った。
「いいよなー、水泳!女子の水着見てーよー…水口さーん」
「ギャハハ、こっからじゃ見えそうで見えねえよなあー」
谷川の言葉に周りの男子が便乗し始める。ちなみに水口さんとはクラスのアイドルで言わずもがな、美人な人だ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねてフェンスの向こうを見ようとしているみたいだが、プールの高さ的にどうがんばっても彼女達の頭ぐらいしか見えないだろう。
無駄な努力をする谷川達が微笑ましい。すると枷村がなんともらしい提案をした。
「肩車して見りゃいいじゃねーか」
その提案に一同はおお、と感嘆する。
「一番背が高いやつは…氷室だっけ」
「あいつ駄目だ、体育委員だからいねえ」
「じゃあ…」
一斉に俺の方へ視線が集中した。
え、マジか。
「頼む!兵藤~!」
谷川が俺の前で合掌し始めた。彼は小柄なので持ち上げることに何の苦労も無い。しかし問題はそこじゃない。いくら浪漫の為とはいえ彼女達のプライバシーを守る事も男の義務である。
「いや、まずいだろ…」
「少しだけだから!」
「やってやれよ兵藤!」
「兵藤様~」
「キャー直人くーん」
「谷川の次は俺頼む!」
いつの間にか肩車をする事が決定になってしまっている。チラリと五條の方へ目配せをしたらふい、と視線をそらされた。さっきの事で拗ねているのだろうか。
考えている暇も無く急かすので、どうにでもなれ…と谷川を肩に担いだ。すると一同は歓声を上げる。
「うほー!絶景!!」
頭上で彼が腕を振る。羨ましそうに下にいる枷村達が実況中継をせがみ始めた。
「今準備体操してるわー…おぉ…やっぱ中井さんも胸でけぇなぁ」
「ゴルァアアア!!」
突如背後から響く怒声。体育教師が戻ってきたのだ。
「覗くな馬鹿もんがあぁああっ!!」
「「「やっべ!!」」」
巻き添えは喰らいたくないので乱暴に落とすと元いた位置へ整列した。後ろで谷川が尻餅をついたらしく枷村達の笑い声が響いたが知らぬが仏。
各々出席番号順にペアを組まされるとグラウンドやテニスコートの中に散らばった。俺とペアになったのは、かなりの高身長の持ち主、氷室。
彼は体育委員でもあり、テニス部のエースだ。日焼けして真っ黒な肌に頑丈そうな体格。「やろうぜ!」と白い歯を輝かせ人懐っこい笑みを浮かべてボールをラケットで鞠付きの様にポンポンと叩く。
はたして現役の彼とまともに打ち合うことが出きるのだろうか…。
手慣れた様子でボールを空中に上げた。どんな豪速球が飛んでくるのかと身構えるが、落下したボールはもう一度彼の手の中に収まった。
そして氷室はそのまま振り向いて誰かと話し始める。後ろに居たのは五條で、影に隠れていたらしく気づかなかった。
2人は二言三事言葉を交わし、氷室が少し首を傾げていたがすぐに「いいぜ!」と声を響かせて誰か違うペアを探しに行ってしまった。
どうやら交代したらしい。テニス部エースと打ち合わなくて済んだと安堵した反面、ちょっと彼のサーブを体感してみたかったと思った。
五條は手を上げて合図をすると、ポンとボールを打った。黄色い球はバウンドして俺の元へ飛んでくる。暫く打ち合っていると今度はボールと共に言葉まで飛んできた。
「だから何て言われたんだよ」
さっきの続きらしい。懲りない五條は至って真顔で、パコンパコンと音を響かせてラケットで打ち返してくる。そこまで聞きたいなら、俺も開き直るしか無いのだろう。
「眼鏡じゃないほうが良いって、言われたんだ」
「ええッ?」
ボールを跳ね返し、五條の元へ送る。彼は左へ少し走ってラケットを振った。
あの時の中島の真意は分からないが俺をからいたかっただけだと思う。彼にまで言われるとは、俺の眼鏡姿はよっぽど似合わないんだろう。
「だから、眼鏡が無い方が可愛いよって言われたんだッ」
勢い余ってラケットを強く降りすぎた。強くバウンドしたボールは五條のいる位置を越えて転がって行ってしまう。追い掛けて行った五條の背中に一言詫びた。
彼が再び戻ってくると、今まで通りアンダーでは無くボールを高く上げて氷室が打とうとしたサーブの形に入った。そしてこれでもか、と大きな声で叫ぶ。
グラウンドに居た生徒の何人が聴いてしまったのだろう。
「どんなお前も可愛いよ!!」
「……はァ!?」
猛スピードで飛んできた球は五條が言った事を理解しようとしたせいで打ち損ねてしまった。ストレートに俺の顔へ向かってきたボールはパコン、と額を殴った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 50