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狙われた狼
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夏休み明けの文化祭に向け軽音楽部のバンドチームに入って練習するから、と五條は早々にギターを持って行ってしまった。
そういえばそれなりに弾けるって言ってたし部屋にも音楽関連の雑誌があったなあと思い出す。一体どれくらい上手いのか一度聴いてみたい…そう思いながら1人帰路についた。
蒸し暑い気温の中、額に滲む汗を拭おうとして今日の体育でテニスボールが激突してしまった部分に触れた。そこはかつて中島に頭突きをして腫れた箇所。情けなくも二度打ちだ。五條といい中島といい、俺に対して可愛いだのと馬鹿にしすぎではないか。何を基準に言っているのか、理解に苦しむ。
少し悩んでいたが、考えるだけ無駄な事だ。もうすぐ期末試験だから、早く帰って勉強しよう。いつもの交差点を渡り切った時、突然後ろから肩を叩かれ振り返ったらそこには三人の他校の男子生徒がいた。
彼らはそれはもうルーズに制服を着用していて不良オーラ満々。意地悪そうに笑って見上げてくる。
「なァ、ちょっとツラ貸してくんねーかな」
貸してしまったらどうなるか、結果など誰にでも分かる。側に五條はいないので狙われているのは俺1人だ。いつだったか五條が「お前も狙われるかもしれねェ」と言われた事がある。まさかとは思っていたが、本当にそうなるとは。
不良達に答えないまま全力で腕を振り払うと、どこに辿り着くのかも構わず逃げる。「ゴルァ待てぇ!」と予想通り三人は追いかけてきた。無我夢中で走って振り返り、どれくらい距離を離したか確かめたらいつの間にか不良達の人数は倍になっていた。
「…ッ!何でっ…」
今なら五條の気持ちが分かる。凄い形相した男達に追いかけ回される程怖いものは無い。何でこんな事に…と考えてすぐに結論が出た。先日、造船所で不良達20人を倒したのは紛れもなくこの俺だ。
恨み辛みもあるだろうが、やられたらやり返しにくるなんて単純な奴らである。今は竹刀を持ち合わせていないし、かと言って素手で倒せる人数でもない。
油断していたら、並んで下校する小学生達に足を取られた。
結局行く手を塞がれてゲームオーバー。そのまま逃げ出せるはずもなく強制連行されてついた場所は、だだっ広い有料駐車場。平日の昼だけあって止まっている車の台数は少ない。隠れられる死角も少ない。…ああ、嘘だろ。誰か嘘だと言ってくれ。
「この前は随分とやってくれたじゃねーか。あ?」
俺だって好きでやったわけでは無い。彼らにその言い訳が通用する見込みは0だ。これじゃあいくら怪我が治っても身が持たない。
せめて竹刀の代わりになる棒状のものがあればいいが、辺りを見渡しても役に立ちそうなものは一切落ちていなかった。
いきなり背後にいた男に羽交い締めにされる。そして右腕、左腕を二人の不良が片方ずつ固定して意地でも俺に抵抗させないように拘束された。
なぜこうも不良達は正攻法で挑んで来ないのだろうか。何とか身を捩って逃れようとするが三人がかりで拘束されてはビクともしない。
満足そうに笑う金髪の男は今度は腹に拳を入れてくる。
「ッく」
間隔を開けずに四方から蹴りや拳が降ってきて、ここは立派な集団リンチの現場と化した。必死に顔を背けて殴る蹴るの暴力に堪える。意地でも声を上げてやるかと、唇を噛み締めながら僅かなプライドだけで男達を睨んでやった。
俺の様子がさぞ気に入らないであろう、暴行する輪の中にいた赤い髪の不良が俺の顎を乱暴に掴み強制的にそちらへ向かされる。
「声出さねーように頑張っちゃってさ、健気だなあ?」
ふん、と視線を逸らして赤髪の男を視界から外す。誰がとり合ってやるものか。ヘラヘラと周りを囲う不良達が笑い出して気味が悪くなった。痛んだ身体が吐き気を訴えてきて、立つことさえ辛い。ああ、早く済ませて帰らせて欲しい。今日は勉強する予定だったのに。
チッ、と舌打ちをした赤髪は俺の顎から手を離すとそのまま頬を殴る。歯を食いしばっていたおかけで大した傷にはならなかったが、それでも衝撃で口端を切った。口内にじわりと血の味が広がっていく。
「っッ」
一度唇を開けば情けない声をだしてしまいそうになる。愉快そうに俺の髪を掴んで引っ張ると無理矢理目を合わさせようとしてきた。
「助けてください〜っとでも言ってみろよ」
死んでも言わん。
赤髪の嘲る声音に辺りにまた乾いた笑いが響く。ヤケに耳障りだ。
「生意気なんだよてめェ。スまして偉そーなツラしちゃってさぁ。こんなのちっとも痛くねーってか?」
痛えよ。しかし反論する気力もないので、もう一度赤髪を睨んではみたものの再び逸らす。
「だったらコレなら痛ェーか?あ?オルァ」
次に威力のある蹴りが当たったのは、男がもつ最も弱いであろう身体の中心にある急所。予想外の位置、それも激痛所ではない。なんて奴らだ。
「ッぐぁ!」
「ギャハハハ!痛ぇーよなぁ!いっそ使いモノにならなくしてやろーかァ?」
つんざく笑いとニヤツく面々。これに堪えきれる男が居るとしたら是非とも教えて欲しい。情けなく口を開けてとうとう悲鳴をあげてしまい、唇に先程切った箇所から出た血が流れ出た。
痛みにバランスを崩した俺はそのまま地面に膝を付いてしまい、両腕を後ろ手に固定されたまま先程よりも何とも無様な格好になった。間髪入れず靴先が顎を軽く蹴り、そのまま上を向かされる。今度こそ赤髪を含む不良達と目が合った。
「男前が台無しだなぁ、ええ?」
ああ、いっそ気を失ってしまえば楽だろうに。
「ちょいと、」
瞼を閉じかけるが、突如とかけられた冷静な声に俺と不良共は一斉に振り向いた。
「誰だ!?」
声の主は思い浮かべたオレンジ髪の男では無かった。そこにいたのは俺の知らない人物だった。黒い髪に薄いグレーのサマーカーディガンを羽織った男は茶色い鞄を片手に、呆れた表情を向けてくる。
正体は知らないものの、あのカーディガンは俺と同じ学校の制服だ。でも会ったことがない人。けれど、どこか見覚えがあるような。
男は長めの前髪を軽く分けて気怠げに言葉を紡ぐ。
「今時集団リンチですかー、マジですかー。しかも拘束プレイって」
「ああ?」
鼻で笑い飛ばす黒髪に不良達の沸点は近い。謎の男は一切怯む様子もなく挑発し続ける。拘束されている俺はただ見守ることしか出来ない。けれど、黒髪には素人でも分かる絶対的な強さが感じられた。
「困るんだよねー、ウチの生徒に手を出すの止めてくんない?何が楽しいか知らないケド、たった1人苛めんのにそんだけ群れるんですかー?ま、口で言って分かってたらこんな馬鹿な真似しないよねー。サッサと終わらせて大人しくヤキ入れさせてもらいましょーか」
早口で一気にまくし立てた黒髪は呆然とする不良達を前に平然とカーディガンの袖を捲った。そしてこちらへ近づきながら辺りに鞄を放り投げると至って真顔のままでポキポキと指慣らしを始める。
「カモーンベイビー」
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