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謎の救世主
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黒髪の男は向かってきた不良達を華麗に薙ぎ倒していった。「弱ぇーなー」と呑気に言いながら1人ずつ背負い投げをしてバッタバッタと地面に叩きつけていく。
不良の攻撃はまるで当たらないし、流れるような体裁きに思わず見とれてしまう。彼は空手か柔道の達人なんだろうか。回し蹴りの速度は決して素早いものではないが威力は凄まじい。時には二人一遍に弾いてしまう。地面に転がった男達は体を痙攣させたまま二度と立ち上がらなかった。
俺の背中と左腕を拘束していた二人は倒れていく仲間の加勢をするために持ち場を離れた。側に残るは1人だけ、ならばと右腕を拘束する男を目一杯突き飛ばして何とか立ち上がった。
一体誰なのかは知らないが、謎の助っ人のおかけで命拾いをした。まずはこの場を離れようと数歩後退りをしてみたのは良いのだが、散々殴られた体が安定して歩けるはずもなく。よろめく俺に追い討ちをかける様に不良が「逃がすか!」とこちらに向かってきた。
どうやら黒髪の動きを止めるために人質に取ろうと考えたのか、俺の目の前に男が立ちはだかって今にも殴りかかろうと腕を振りかざす。避けることも出来ずに、咄嗟に顔を片腕で覆った。
しかし一向に拳は当たって来なくて何事かと腕を降ろしたら、そこに男の姿はなかった。刹那、視界の端に透き通るような金髪が映って、そいつはいきなりこの場に介入してきた。
俺を殴ろうとした男は既に気絶している。
ポケットに手を突っ込んだまま金髪は退屈そうに不良達を足蹴にし、登場わずか五秒で蹴散らしてしまった。その誰とも似つかない独特の金髪をもつ男は、ただ1人しか思いつかない。此方を振り向いた中島はニヤリとキツネの様に目を細めて笑った。
「だいじょーぶ?」
あれほど恐ろしかった力がこうして見たら、なんと心強いことだろう。俺は頷くと、黒髪の男へ視線を移す。そちらもどうやら片付いたようで、彼はふうと溜め息をつきながら腕を揉んでいる。
「久しぶりだから不安だったけど、まー大したことないなー。あ、大丈夫?」
中島と同じように心配をしてくれた男に俺はもう一度頷いて見せ、声をかけようとした。
「アンタは…」
「あ、やべー遅れる」
聞いていなかったのか、黒髪は答えることなく自身の腕時計を見ながら地面に置いてあった鞄を拾って肩にかけ、俺と中島に向かって片手を小さく挙げた。
「俺、これから塾なんだよねー、間に合わないから急ぐ。じゃ、そういう事で。気をつけて帰るんだぞー」
早口で喋りきった黒髪は「グッバイ!」と踵を返し全力疾走して突風の様にこの場を去ってしまった。彼の正体も、なぜ助けてくれたのかも分からず、礼すら言えぬまま俺は呆然と立ち尽くした。
隣にいた中島は「知り合い?」と首を傾げて尋ねてくるが俺自身もよく分からなかったので「誰だろう…」と答えることしか出来ない。あの黒髪男をまったく思い出せないままだった。
「それにしても、大変だったなァ?直人くんがヤられてるって聞いて飛んできちゃった。テヘ」
「一体…どこから…」
「俺の情報網すごいの」
どう考えても凄いどころじゃないだろ。しかし俺の体力は底をつきかけているのでツッこむ気もしない。
「もうちょっと早く来てれば面白いモンが見れたんだろうけど。何か絶妙なタイミングできちまったからなァ…」
中島は一体どうして手を出したのだろう。ただ傍観しに来た分けじゃないのか。どうして俺を…。
「何で、助けて…」
「ん?」
片眉を釣り上げて視線を泳がせた中島はうーんと小さく唸った。そして顔を空に向けたまま瞳だけを此方へ向けてくる。
「じゃあ何でお前は五條を助けようとするの?」
何で…?何でだと…?そう聞かれれば言葉に詰まった。俺は、ただ単純に五條が傷つく所を見たくないから。多分、それだけだ。
言葉には出さなかったけれど、中島は悟ったのか俺の答えを待たないで先を続けた。
「それと同じ理由じゃ駄目?」
驚いて隣にいる彼の方を見直したら、ニィと怪しい笑みが口元に浮かんでいる。今のも冗談か本気か分からない。一体、どういうつもりだろうか。俺を助けてた事で中島に利益があるとは到底思えない。それはあの黒髪男にとっても同じだろう。
彼は戸惑う俺の腰に手を回すと重心を支えてくれ、そして笑みを携えたまま「家まで送ってあげる、」と耳元で囁いてきた。
だがここで恩を作るとまずい。もう既に助けて貰った借りがあるのでこれ以上増やすと後が怖いのだ。慌てて手を振り解こうとしたのに、中島の腕は頑丈で離れることも出来ず一頻りもがいたが、「照れない照れない」と結局されるがままだった。
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