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Appointment?
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携帯が振動する音が聞こえた。枕に顔を伏せたまま手探りで携帯を探す。
手を這わしているうちに漸くそれらしき物を見つけて手繰り寄せた。紫色の固いボディを開いて液晶画面を見たら「着信4件」の文字。まぶしい光に目を細める。
普段からマナーモード設定なので寝ている間は気付かない。心の中でごめん、と謝っておいてから同じように枕元を探って眼鏡を探す。時刻は16時31分。慌てて急用を思い出した。
確か、「話があるから」と今日の16時に会う約束をしていたのだ。ヤバい、と血の気が引いていく。もう三十分も経っている。そりゃ電話もくるはずだ。
話というのはきっと、テスト最終日に現れた五條の知り合いについてだ。そのことをずっと考えていたらいつの間にか眠っていた。寝すぎだとぼんやりする頭を叱咤して机の方を見ると広げたままの夏休みの課題。
窓の外からはしとしとと雨粒が打つ音が聞こえてきた。曇天の下、外も室内も薄暗い。
彼はまだ待ってるかもしれない。
急いで貴重品をポケットに突っ込んで濃紫のパーカーを羽織り部屋を飛び出した。
ビニール傘を開き五條に電話を掛けながら走って目的地へ向かう。
1コール。2コール。
しかし一向に繋がらない。5コール目でブツ、と音がして何かが切り替わった音がした。
耳に入った返事は五條の物では無くて機械的な女性の声だった。『只今運転中で、』という言葉を最後まで聞かず通話を切る。免許もないのに何でドライブモードなんだか。
待ち合わせ場所のファーストフード店に到着したが、中に見知ったオレンジ色は無かった。既に帰ってしまったのだろうか、ともう一度電話を掛ける。
やはり運転中との事で、申し訳ない気持ちで一杯になりながらメールの新規作成を押した。送っても一向に返事が返ってくる気配は無い。一旦店の外へ出て辺りを見渡すが五條は居ない。すれ違う人々がさす傘が邪魔でよく顔が見えないのが困る。
仕方がないと携帯を開いたり閉じたりしながら時が過ぎるのを待った。もう何度めかのコールを切って時計を見たら17時20分。嫌な予感がじわじわと胸を騒がせた。
怒って拗ねてるだけだと信じたいが、それでも彼は電話をわざと取らない性格じゃない。駄目もとで五條宅へ向かうことにした。
途中で彼とすれ違っても見失わないように慎重に辺りを見回しながらゆっくりと元来た道を引き返していく。
すると前方から、三人組の男達が傘もささずに俺の前へ向かってきた。彼らの髪色や服装を見て嫌な予感がする。話しかけてくれるなよ…と祈り側を通り過ぎようとしたら、案の定と言わずもがな「おい」と肩を掴まれた。
嫌々振り返って男達を睨んでやったら、真ん中にいた男が意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちょっと付き合ってくんねーかな」
そんな暇は無い。
五條に会わなければいけないのだ。
無視してもう一度前を向いたら俺を嘲笑うような声が後ろから飛んできた。
「五條と一緒にいなくていいのかァ?」
不良の発言に聞き捨てならないと足を止める。その口ぶりだと、彼がいる場所を知っているみたいじゃないか。まさか…
「どこにいる…五條は」
今度は男達に目を合わせて問い詰めた。釣れたと鼻で笑った不良は答えをはぐらかす。
「ついてきたら分かるぜ…?」
はたして、ついて行った先に五條がいるのかいないのか。先程から電話に出ないとなれば、不良達に絡まれている可能性が高い。いくら五條復活説が流れたといっても、全く喧嘩が無くなるわけではないのだ。
パタパタと傘に打ち付ける雨が焦りを掻きたてていく。悩んだ末、俺は静かに頷いた。
彼らに連れられるまま薄暗い小道を進んで辿りついた場所は、古びた雑居ビルとビルの間に出来た空き地だった。そこには待ってましたと5、6人の男達がじろりと俺を見て薄く笑っている。中に五條の姿は無い。ハズレだ。
溜息をついた矢先、無理矢理背中を押されて彼らの輪の中に入れられる。
「カワイソーだけど、ちょっとボコられてくれよ」
「悪ィなァ、こっちも頼まれてやってっからさー」
申し訳なさそうに悪い悪いと声に出す不良達は全く詫びる様子を見せないで楽しそうだ。こうなる事はある程度予想していた。
しかし五條が未だに他の不良達と喧嘩をしているという可能性は消えていない。早くこいつらを片づけて見つけに行かなければ。
そして話を聞かなければ。
もう一度深く溜息をついてから、傘を閉じ丸めてボタンを留める。小粒の雨が瞬く間に俺の体や髪を濡らし始めた。雨は冷たかったが、苦にはならない。男達に向き直るとその場で傘を数回縦に振り水しぶきが小さく散ったのを確認してから、それを両手で持ち直して構えた。
こんなもので太刀打ちできるだろうか。
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