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Mi piaci
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「ねえ、僕はもう、本当に、耐えられないんだ」
僕は彼に訴えた。彼は答えた。
「だから出て行くと言っただろう」
それで解決と言わんばかりの口ぶりだった。
「本当に出て行くの?」
僕は、それも嫌だと思った。
僕の望んでいる解決法ではなかった。
「傷が治るまでは置いてくれ」
彼は言った。
「ずっといてもいいんだよ」
僕は、なだめすかすように、優しく言ってみた。
「でも、俺がいると、耐えられないんだろう?」
彼は、少し態度を緩和させて僕に尋ねてきた。
「だから、隠さないで、ちゃんと話してほしいんだ。それだけのことだよ」
僕は、熱意を込めて言った。それでも、
「話すことはない」
また彼は、心を閉じて、ぴしゃりと真実の部屋の扉を閉じるように言った。
「だったら何を苦しんでいるの?」
「さあ」
本当は、話すことがあるのに、黙っているから、苦しんでいるんじゃないか、と僕は、言いたかった。
「僕は、あなたに何もできないの?」
「そんなことはないよ」
「僕だって、何かしたいんだ」
「別に……」
「あなたといてもまるですかすかで、僕は、あなたが確かにここにいるってことを知りたいんだ」
「そんな……」
「僕は、不確かなものが怖いんだ。確かなものが欲しい。確かな、手にとれるあなたが」
弓弦さんは笑い出して、茶化すように僕の肩を抱いた。
「Mi piaci tanto. Ti vorrei……」
まるで愛の告白のようだと、彼は、僕をからかうつもりらしかった。
「抽象的な意味で言っただけだよ」
僕は、真剣に言ったのに、からかわれて不服だった。
「俺は本気だよ?」
彼は、意外にも、天鵞絨のように耳をくすぐる、優しい声で返してきた。
「本気って」
僕は、どう返事していいのか、わからなかった。
「ごめん」
弓弦さんは冷めた顔で僕をつき放した。
哀しみを癒すのは、何だろうか。
僕は寂しかった。
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