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どこかで鍵の回る音がした。
何かにぶつかる音。
転がりこんで来た人影。
ゆっくりと、その人のうつむいた顔が上がった。
それは、あのなつかしい弓弦さんの面影だった。
「千蔭」
弓弦さんが僕を名前で呼んだ。
僕は、ときめいた。
なぜなら、僕のことを名前で読んでくれたことが、なかったから。
僕も。
お互い、たぶん、照れくさかったから。
そんな恋人同士のような、新婚生活のような事態が、照れくさかったから、互いに、あえて、そっけなく振る舞っていたのかもしれない。
男同士で、そんな甘ったるい生活をしたり、呼び合ったりすることが、できなかった。
違う。
男同士だからじゃない。
きっと、もし、弓弦さんが、困った事態に陥っていなかったら、僕のことを愛してくれたかもしれない。
もっと手放しに。
もっと遠慮せず。
でも、弓弦さんには、苦難の足かせがあった。
だから、僕も、どうしていいかわからなかったのだ。
「弓弦さん」
僕は口を動かした。
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