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助け
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振り返った金子は、青くなって言った。
「俺、帰るわ」
奴は、すばやく服を着て、部屋から出ようとした。
すると、弓弦さんが、奴の前に立ちはだかり、出口をふさぐようにして、静かに言った。
奴は、弓弦さんより背が低く、くすんでいて、醜かった。
「謝りなさい」
弓弦さんが、奴に、厳かに告げた。
「……何で俺が」
奴は抵抗した。
「君は木下君に悪いと思っていないのか」
弓弦さんは、叱責するように言った。
金子は、ちらっと僕を見て、また、びくびくした様子で、弓弦さんの顔色をうかがった。
その様子は、気圧されているという風だった。
僕は無表情でいたが、内心は震えていた。
「……御免なさい」
奴は、卑屈に、彼に向かって頭を下げた。
「俺に向かって言ってどうする」
弓弦さんは、語気強く、だが静かに、威圧的に言った。
「あっちだろう、木下君に言いなさい」
奴は、怖じ気づいたように、僕の方に向かって、頭を下げて言った。
「……御免なさい」
「もっとしっかり頭を下げて」
弓弦さんが、注意した。
「御免なさい」
僕は奴に表情を見せないようにしていた。
なめられないように、弓弦さんを補佐するように、人一人分の威圧感をもって、そこに表情を見せない不気味な存在として、存在した。
弓弦さんは、最後に告げた。
「二度と木下君に近付くな」
金子は、および腰で、一刻も早くその場から逃げだそうとするかのように、後ずさりした。
「返事は」
弓弦さんは最後まで、厳しい態度を崩さなかった。
「はい」
金子は、十分な距離を得るまで後ずさると、踝を返して、一目散に走って逃げ出した。
遠くで玄関のドアがバタンと閉まる音がした。
奴は闇に消えた。
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