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鉱石研究所の一室、ペッツ博士が碧色瑪瑙(ブルーレースアゲイト)の縞模様について論文をまとめている後ろで
標本箱の中の孔雀石(マラカイト)が反乱を企てていた
丁度、孔雀の羽根模様のまま卵形に切り出された彼は
水酸化炭酸塩の結晶にしかすぎない自分が何を企んだところでどうしようもないことは分かっていたが、
ただこの狭い箱の中で一生を過ごす気になれないでいたのだ
柱時計が9時を告げるとペッツ博士の助手のカラベラスが淡い桃色のジュースを注いだ洋杯を運んできた
「博士、休憩されてはいかがです」
鉱石博士の助手と言う身分に相応でない容姿の彼は、度々来訪者を驚かせる
はて自分はどこの秘密バーに入り込んだのだろうと
今もペッツ博士に洋杯を差し出す仕草は実に優美で妙な色気を伴っている
一方ペッツ博士は
このような狭く暗い研究所に押し込めておくのは非常に勿体無い端正な造形をしており
カラベラスと二人、本当は一体何を研究しているのかと巷の噂
しかしペッツ博士にはどうでもいいこと、彼の頭を占めるのは鉱石のこと
真にそれだけ
「そっちの円卓に置いてくれ
邪魔になる」
馴れ馴れしく肩に腕を回すカラベラスの腕をペッツ博士がつねる
「何だと言うのです
この暑いのに閉めきって
窓を開けますね、風が冷えて涼しいですよ」
白衣の下に着こんだ黒いシャツの襟を開きカラベラスが抗議する
確かに8月の盛り、窓を閉じカーテンのかかる部屋は蒸し暑い空気が淀み息苦しい
だが論文に夢中の博士にはどうでもよいこと、彼の集中を前にあらゆる人間的な感覚は消え失せる
カラベラスが緑青のカーテンを開くと蜂蜜色の満月が暑さに汗を滴らせるばかり、
潤んだ輝きを灯していた
「博士、綺麗な満月ですよ」
目映い月光も博士の視野には入らない
孔雀石は体に満ちる不思議な光を全身に浴びていた
月に誘われカラベラスが窓を開くと、夜空を渡る風が見えない幕となり室内に広がる
「どうです、この方が気分がいいでしょう」
とカラベラスが振り返ったその時だった
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