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眠れる森(3)
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そろりと歯を立てて、音も立てずに食らいついた。
「……っ」
瞬間強張る身体をぎゅっと抱きしめながら、千早は溢れ出す血液を吸う。
底抜けに甘い血液が喉を潤し、そのあまりの美味にいつもながら我を忘れそうになる。
千早は人間の血液を吸うことで生を得る、いわゆるヴァンパイアだ。
端正なその顔立ちで人を誘い、キスをし、巧みなセックスで相手の気が緩んだところを狙い、血をいただく。
彼らはあまりも貪欲だ。
相反して人間は弱い生き物である。
腹を満たすためだけに血を吸えば、いとも簡単に人は死んでしまう。
しかし葵の前ではそうはいかない。
彼のために、千早は人間にならなければいけなかった。
そしてそれは、なかなかうまくいかない。
「う……ぅ…」
呻き声が聞こえ、ようやく千早は正気に戻った。
深く刺さった牙を抜くと同時に、力の抜けた身体がくったりと折れる。額にかかった淡い色の髪を唇で払い、触れる。まだ生きていると確信できる冷たさで少しほっとする。
「…は……ぁ…」
浅く息をする姿は、酷く切なく目にうつる。
甘い血の混じった唾を飲み込み、千早はその小さな頭を胸の中に抱き寄せた。
「ごめんね、苦しいよね」
無言で、それでもぶんぶんと首を振る葵をさらに強い力で引き寄せ、耳にキスをする。唇をつけたまま、
「ご馳走サマ、美味しかった」
と呟くと、蒼白だったうなじがサッと赤く染まった。
所在無さげに彷徨った左手を握る。
ゆっくりと押し倒せば、すがるように強く握り返される。
葵はいつだって健気で。それでいて、美しい。
狂気が芽生える音は、いつから聞こえていたんだろう。
「千早…好き」
チョコレートのような甘い匂いを漂わせながら、さざ波のように打ち寄せる感情で目が眩む。
珍しく、葵が自ら唇を求める。
淫らな血の味と、チョコレートの味が混ざった激しいキスをしているうちに、千早は考えることを放棄した。
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