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眠れる森(4)
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「飲まないのか」
足元に転がる、新しい死体の匂いで喉がひりつく。
喉を掻き切られたそれからは濁った血液が溢れ出すが、千早の喉を潤すことはなかった。
もうこのままでは、自分は生きていけない。
「あの子以外の血は、もう飲めない身体になってしまったのか」
事実、千早は喉を掻き毟りたくなるほど血に飢えていた。
―・・・しかし腹を満たす甘い果実はいまだ眠っている。
皮肉なことだ。生きていけないと思うのに、千早の身体は死ぬことを知らなかった。
「このままでは、棺桶に花を添えることになるぞ」
背後から肩に手がかかる。
振り払う力すら尽きた千早はされるがままに、繋がった唇から注ぎ込まれる血液をこくりと飲み込んだ。
その瞬間、赤く赫(かがや)く瞳に、彼は同じ赤の瞳を細める。
「―・・どうして」
千早が葵以外の血を、吐き出さずに飲むことができたのは随分と久しぶりだった。
「知りたいか」白い顔がにやりと笑う。
「いつまでも、終わりを感じたくはないだろう」
「君も彼を助ければいい、僕が君を、助けたように。」
♢ ・ ♢ ・ ♢・ ♢
「葵」
そう呼ぶと、それまで椅子に腰掛けていた葵はぐるんと振り返って、
「あっ千早、遅かったね」
花開くように笑う。
彼が恥ずかしい思いをしないように、控えめに頭を撫でる。
「あっちの席に行かない?ここより暖かいよ」
春とはいえ、4月はまだ寒い。
しかし図書室の自習スペースではなく、もっとその奥、資料室に行きたい理由はそれだけではなかった。
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