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その花に、想いは
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「よし、帰るよ。 じゃあ、直輝またね」
「……祥」
「俺ね、本当に直輝が好きだったよそれだけは嘘じゃないから」
「…………ふっ、知ってる」
「何だよバカ」
いつもと変わらず直輝が笑っている
直輝の笑う姿が最後に見れて嬉しい筈なのに心臓がひねり潰されそうだ
微笑んだ直輝が俺の頭を撫でようとして手を止める
伸ばした手を止めると、ゆっくりと引っ込めて、やがて下ろした
ああそうか、もう俺達は
理由もなく触れ合える関係じゃないんだ
そんなことを目前で見せつけられて
キリキリ心臓が痛み出す
これでいいんだ、これで
もう二度とその手に触れて貰えない関係が俺達の新しい関係何だから
「……寒いから気をつけろよ。 風邪引くなよ、それと……あんま溜め込むんじゃねーぞ」
「直輝こそ俺が居ないからって泣いちゃ駄目だからね、かっこ悪いぞ」
最後まで本当に世話焼きだ
直輝こそ、あんまり自分を追い込みすぎて倒れないか心配だっての
「その言葉はそっくりそのまま祥に返すわ」
「うるさいっ」
直輝のわざとらしいイヤミに言い返すと
自然とお互いから笑顔が零れる
だけどどこかお互いに無理した笑い方で
それが返って痛々しい
靴を履いて、マフラーを巻くと
直輝のいつもと変わらないバカにするような笑い声を聞きながら玄関のドアノブを握り締めた
……ここを出たらもう直輝と
こうして笑い合う事はないと思う
きっと、それは直輝もわかってる筈だ
だけど自分一人で歩くって決めた
直輝のそばを離れるって
直輝を傷つけてまで決めたんた
「じゃあ、行くね!」
「……祥」
「なあに?」
「頑張れよ」
「――っ! ……ありがとう。 俺も直輝の事応援してるから」
「俺と別れた事、後悔するくらいには活躍してやるよ」
「あははっ楽しみにしてる」
ケラケラと笑いながら
ゆっくりとドアノブをひねる
そしてそのまま前へと力を込めると
玄関から外へ一歩を踏み出した
「じゃ、また」
「祥ありがとうな」
「ふふっ、直輝がお礼とか気持ち悪いよ」
「うるせえよ」
玄関のドアの外に立つ俺と
玄関のドアの中に立つ直輝
こんなにもこの距離は遠かったかな
もうこの一歩を戻すことは出来ない
俺と直輝のあいだに
ハッキリとした壁が出来たんだ
今俺達が別々の道を歩く為のスタートラインに立ったんだと表しているみたいで
胸がズキズキと痛み出したのを抑え込むと大きく息を吐いた
最後は笑顔で別れたい
だから思い切り笑顔を作って、
扉から手を離す
ゆっくりと閉まっていくその扉の奥で
直輝も俺が好きだったあの日と変わらない
余裕そうな笑顔でこちらを見ていて
心の中に冷たい水が広がった
瞬きをしているあいだに
直輝の顔が扉の奥へと消えていく
扉が全て閉まるその瞬間
ピクリと動いた右手を押さえつけると
最後までその扉の奥を見つめていた
閉まった扉の向こうにいる直輝には
もう二度と俺のこの言葉が届く事はない
これでもう、サヨナラなんだ
「……はぁ寒」
扉から視線を外すと体を反転させて真冬の外を歩き出す
いつも通ってたこの部屋にはもう二度と来ることはないんだと思いながら、歩みを進めるのは何だか言い表せない気持ちを溢れさせた
さっき迄直輝と二人で手を繋いで歩いてきたのに今は一人だ
もう俺達は一人で道を歩き出したんだ
「……」
ひんやりと切り付ける様な
寒い冬の風が吹いていて
寒いのが苦手な俺はほんの少しだけ早足で歩みを進めた
「本当、寒いなぁ」
雪でも降るんじゃないかってくらい
今日はいつもよりも一段と冷えている気がする
月も雲に隠れて星一つない
真っ暗闇の夜空の下を歩きながら
せめて月だけでも顔を出していたらもう少しは明るい筈なのになんて愚痴を零した
それでも俺は見上げる事を辞められず
何もない、雲で覆われた闇が広がる夜空を見上げたまま歩いていた
もしも今隣に直輝が居たならばきっと
「転ぶぞ」なんて少し過保護に注意でもしてきたんだろう
そう思った途端、
何だか左隣がやけに寒く感じる
「………」
そんな理由、わかってる
いつもよりも夜が暗く感じる理由も
馬鹿みたいに外が寒く感じる理由も
このままこの暗がりに溶けてしまいそうな恐怖も
そう思わせる理由なんて
きっとたった一つだけだ
いつも当たり前の様にあった体温が
今は横にない
それはこれから先もずっと、ずっと変わらずに
もう二度と俺の隣にあの大好きな暖かな体温が並ぶ事はないだろう
「………ははっ……。 馬鹿は俺だよ」
ギュッと握り締めていた拳から力が抜けていく
一歩、一歩前へと向かう足が
何かに絡め取られたかのように重く感じる
もういいだろうか……
もう、大丈夫かな……
真っ直ぐに上を向いて歩いていた歩みを止めて
何も見えない雲に覆われた空を見上げるのを辞めた
さっき迄あんなにもクリアだった視界が
ぐにゃぐにゃと歪み出す
冷えていた頬の上を暖かい何かが
幾つも幾つも伝い落ちていく
何かが流れたその跡は
風に撫でられる度に寒さを感じさせて
そしてまた冷えた涙の跡を、
溢れ出して止まることの無い大粒の涙が辿っていく
「……っ……うっ……直輝……ッ」
開いた口からは嗚咽に混じる直輝の名前が溢れた
「直輝……ッ……なお……きぃ……っ」
その名前はまるで抑え込んでいた感情の蓋をはずす鍵みたいで、一度溢れた思いは止まる事を知らず溢れ出す
「うぁぁっ……っ……うぅっ……直輝……ッ。……好き……好きだよ……ッ」
心臓が痛い
痛くて、痛くて、堪らない
寒くて悲しくて苦しくて
直輝を好きだって感情に押し潰されそうだ
隠していた本音はボロボロと溢れ出ては
俺の首を締め付けていく
子供みたいに涙が後から後から溢れて止まらなくて泣きじゃくってしゃがみこんだその場所は何処までも真っ暗な世界が続いてるようで
直輝が好きで好きで堪らないんだって
心が痛いくらいに叫びあげていた
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