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ズレ出す歯車
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「……、でも悔しいんだけどさ。 それでも直輝が好きなんだよなぁ~、っ」
「……」
「初めてなんだ……女の子大好きな俺なのにさ……直輝の事なんて直ぐ忘れると思ってたのに……ッ」
「爽」
「ッ、その声とか……困りながら笑う顔とかも……! 全然ッ、一つも……消えなかった……」
「爽、泣くな」
「ふざ、っけんな……!」
「……ッ」
分かってる
堪えきれなくて涙を零す相手に
泣くな、なんて無責任な慰め方
そんなの無いだろって
もっと上手い慰め方知ってる筈なんだ
こんな修羅場簡単に足蹴にしてきたくせに
女が泣いた時はあんなに何も感じなかったのに
なんで俺は躊躇ってるんだ
どうして言葉を躊躇するんだろう
一度その線引きを許してしまえば崩れる事ぐらいわかっているのに
「俺はッ! 三年前も、今もずっとお前を待ってたんだぞ!」
「……」
「でも、祥くんの事が好きなの嫌ってほど知ってるから! 俺が入る隙なんて少しもねーし……っ」
「……爽、悪い」
「謝んな馬鹿野郎ッ」
怒りをぶつけてくる爽に
シャツの胸ぐらを掴まれる
涙に濡れた瞳が俺を真っ直ぐに睨みつけていた
……息が、しづらい
シャツを引っ張られてるからこんなにも息苦しいのか
何度息を繰り返しても
酸素を感じない
目の前の景色がモノクロへと色が移り変わる時
俺を真っ直ぐに見ていた爽が
もっと顔を歪めて涙を零した
「……ッ、馬鹿野郎、情けない面してんなよっ。 ……直輝が、好きだ……好きなんだよお前のこと」
「ーーッ」
「……二度なんて無くていいから、一度でいい。 だから、直輝……俺のこと抱けよ……ッ」
肩口におでこを預けて爽が泣き崩れる
嗚咽を押し殺して爽が震える声で懇願する
やんわりと背中に回された手が俺のシャツを握りしめていた
首元に爽の涙が零落ちてきて
爽の苦痛も涙の温度さえも伝わって来るようで
俺と変わらないぐらい同じ背丈の
男である筈のこいつが初めて小さく見えて
震えるその肩を抱きしめるように
ゆっくりと背中へと手が伸びた
「直輝……、頼むっ……もう終わらせたいこんな気持ち」
「……ッ」
「直輝……ッ、好き、好きだッ」
ズキズキ
ズキズキ
頭が、心臓が、痛んで仕方ない
好きだと泣くのは爽なのに
「好き」と聞いた時真っ先に
こんな時でも浮かんだのは祥の姿で
祥に好きと言われたあの時間は俺にとって
唯一生きてると思えた時間だったこと
本気で俺の手で幸せにしてやりたい、なんて
信じもしない神にまで手を合わせるほど
俺は祥が好きで。 大好きで。
祥が今も好きな気持ちは
一ミリも揺らぐことがなくて
自分の女々しさに苦笑ばかりが零れた
あと少しで抱きしめてしまいそうだった手の平を強く、強く、爪がくいこむほど握りしめてゆっくりと下ろす
それから一つ、
静かに息を吸うと昔と変わらない
人を馬鹿にする笑みを被って爽を突き放した
「……ふっ、バーカ。 何泣いてんの?」
「ーーッ」
「俺、男は無理だっての」
「……直輝?」
「爽も散々遊んできたんだからそのぐらいの線引きしっかりしとけよ」
「なん、だよ……っ」
「はぁ、なにいつまでも間抜けな面してんの? 爽の好きも本当かなんてわからないだろ。 そんなんで抱いてくれってお前酔いすぎ」
「ーーッ?!」
痛くて痛くて苦しくて
ズキズキする苦痛は体中に駆け巡る
上手く笑えてるだろうか
爽を傷つける言葉をしっかり
嫌なヤツとして言えるだろうか
爽が俺を嫌いになれるほど
俺は最低な男になれるだろうか
こんななんて事無い振りして
嘘をつくことなんか得意だった筈なのに
人を傷つけることに罪悪感なんて感じてこなかったのに
今迄も散々人なんて無視してきたのに
爽の泣いた顔があんまりにも悲しくて
友人として認めてるこいつの涙を流す姿を見るのが苦しくて
傷つけたくないなんて
誰も救われない弱さが胸を染めた
「ふざけんなッ!」
「ッ、てぇ」
「俺が! 俺が少しの勘違いでこんなに……こんなにみっともねぇ事してると思ってんのか?!」
「……」
「誰が勘違いで……プライド捨てて男に縋るかよ! 三年間も俺がどんな気持ちで」
「知らねぇよ」
「……」
「俺は三年の間一度も爽の事なんて考えてなかったんだ、そんな事言われても迷惑だ」
「ッ、お前!」
「俺にとったら爽はどうでもいい奴だって、何度も言ってただろ? 勝手に夢見たのはお前だ」
ガシャン、と激しい音を立てて
床に透明な硝子がキラキラと照明を反射して弾け飛んだ
掴みかかってきた爽に押し倒された衝撃で
テーブルにあったグラスも酒も何もかもがフローリングへと割れ散る
濡れた床の上に爽に乗しかかれたまま
俺を殴ろうと振りかざされた拳はスピードを失って力なく胸を数度叩くだけ
それから爽までもが俺の胸に崩れ落ちる
弱々しい反抗が一層悲しみの色を濃くするだけだ
また泣いているんだってこと、
震える肩を見て気づいた
唇を噛み締めて声を押し殺して
最低な男の、俺の上で
馬鹿みたいに純真な爽は
傷ついた心を痛めて涙を流していた
顔を上げた爽の表情に息が詰まる
俺を憎そうに恨めしそうに
睨みつけるその瞳の奥の黒い感情
――それでいいんだ
最低で好きなやつ一人さえ満足に幸せに出来ないような糞男を、俺を、好きになる必要なんてない
そのまま嫌なヤツだって
最低で薄情な人間だって
気づいて俺を憎んで早く・・・・・・
早くそんな悲しい顔しなくて済むように
俺を嫌いになってくれ
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