アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
約束のクランクイン
-
「俺も好き」
そう口を次いで言葉になり声となった部屋にはもう、直輝は居ない
――「だけど俺も今日から祥の事は忘れるよ。 思い詰めさせて悪かったな」
そう言葉を残して部屋を出ていく直輝の背中をただ見つめる事しか出来なかった
直輝の言葉を聞いた時時間が止まった様に感じた
頭が考える事をやめて
息を吸う事だけを繰り返す
何か言わなきゃ本当に直輝が居なくなる
本当に直輝を失ってしまう
その現実は想像よりも重くて
まさかまだ直輝も俺を好いていてくれた事が嬉しい気持ちよりも苦しさを募らせる
そうやって呆然としている間に直輝は
話を止めると最後に「ごめんね」を残して出ていった
それからどのくらい時間が経ったんだろう
三年前に心にポッカリと空いた穴は時間を刻む程に大きくなっていた
それが今のこの瞬間に
体をのみ込むほど広がって行くのを感じる
最後に空っぽになる音を聞いた時には
力無く膝から崩れ落ちていた
「祥さん?」
「……」
立ち上がる事もしないで
呆然としたまま床に崩れ落ちている俺をいつから居たのか結葵君がドアの前に立ち訝しく覗き込んでくる
視線をそっちに向けることさえ億劫で
その声を聞くと苛立つような腹の奥から何かがこみ上げてくるこの不快感に眉を潜めていた時、一層煽るように微笑む声が聞こえてきた
「天使さんにちゃんと言ったみたいですね」
「ッ、触んな」
「どうでした? 天使さんなんて言ったんですか? どんな顔してたんですか?」
「うるさい」
「祥さんはどんな表情をしてたんです? 笑った? 怒った? ……まさか泣いたりしてませんよね」
「っ五月蝿いんだよ!」
「……」
手首を掴んで頬を撫でる結葵君に
楽しそう矢継ぎ早に質問を重ねる結葵君に
大事な時にいつも何も出来ない俺に
苛立った声をあげて怒鳴り付ける
少しの間笑顔を消した結葵君は
黙って俺を見下ろすまま
だけどこの怒りでさえ結葵君を楽しませる材料になるんだと気づいた時には冷たい床へと体は押し倒されていた
「ふふっ今の祥さんとてもタイプです」
「……」
「この前みたいに抵抗を続けて痛みに耐える姿もいいですけど弱って感情的になるのはもっと――もっと綺麗で素敵だね」
歪んでる・・・・・・
結葵君の世界は歪んでる
どうしてそんなに恍惚な表情が出来るんだ
なんで目の前の人が傷ついてる事を蜜のように喜びに出来るんだ
ゾクリと体を走り抜ける結葵君の歪な悦びに喉の奥が締め付けられる
やっと動く事を始めた体は
俺を押し倒し乗りかかる結葵君から逃げ出そうとしたものの呆気なく捕まり開かれた足の間には硬く熱い吐き気を促す温度が押し付けられた
「ッ、!」
「今日は優しくしてあげます」
「やめろッ」
「祥さん傷ついてるから、沢山、沢山、僕が優しくして慰めてあげますね」
「そんなの頼んでないだろ! 離せって!」
「僕がちゃんと愛してあげるから」
「ッ嫌だ」
「だから祥さん」
「嫌だ……ッ」
「早く僕の所まで堕ちて下さい」
「やめろ……ッ!」
暴れ出す俺をびくともしない力で上から抑え込む
酷く優しい声と手付きは
無理矢理に抱かれた日よりも眩暈を引き起こす
優しくなんてされたくない
こんな事望んでない
「祥さんこっち向いて、口開いて」
「嫌だっ」
「言う事聞かない所はおいおい僕が躾てあげますね」
「カハッ……!」
どすん、と重く強い拳がみぞおちへと振りろされる
痛みと息苦しさに目を見開き困惑したまま開いた口の中へと何かを飲み込まされた
「ンンッ!」
「それ飲んで下さい」
「んーっ、んんっ」
「大丈夫怖くない。 だってもう失うものなんてないでしょう?」
「ーーッ」
「今日自ら手放したんですから今更何を拒む必要があるんですか?」
「ッ、う」
「でも良かった。 もし祥さんが自分で切り捨てられないなら僕が助力しようと考えてたんですよ」
「……」
「祥さんの目の前で天使さんを傷つけるのも面白いなって……だけどその必要は無かったみたいですけど」
飲み込む事を拒絶した俺の口を手のひらで抑えつけたままつまらなさそうに結葵君が話し出す
その言葉は俺への忠告だなんてこと分かっている
言う事を聞かなきゃ直輝を直接傷つけるよって遠回しの脅し
暴れる体からは力が抜けて
くたりと投げ出された四肢は床へと張り付く
未だ飲む込む事なく口の中で行き場を失った錠剤を胃の中へ飲み込むとそれを見届けた結葵君の手のひらが離れていった
「やだなそんな顔しないでください」
「早く」
「急かさなくても時間はたっぷりありますよ」
「もう、いいから早くしろよ」
「……はぁ醒めちゃうな」
興醒めだとでも言いたげな彼の手が視界を遮る
それから耳元で生温く不快な温度を感じると今しがた俺から要求したその耐え難い行為の時間がやってきた
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
279 / 507