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あの日の続き
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「見た……って……一体、何を……」
「ッ、だから……祥とアイツが……」
「嘘だ……ッ」
「本当だよ。 祥、こんな事に嘘ついて何になる」
「……ッ、そんな」
「……」
狼狽えるように後ずさった祥の顔は青く染まり出す
一体この反応は何を示してるんだ
どうしてそんなに動揺してるのか
何かが引っかかるのは俺の勘違いすぎか
それとも──
「紺藤のこと好きなのか?」
「え……?」
「……付き合ってる、のか?」
「ッ」
「……」
凍りつく空気の中静かに息をして
絞り出すように聞いたその言葉が一層体から酸素を奪っていく
俯いたままの祥の黒髪が揺れる度
細すぎるほど心配になる華奢な肩が震える度
嫌われても構わないからまた無理矢理にでも腕の中に閉じ込めたくなる
だけどそれが間違いだったんだ
そうやって無理矢理傍に置いたのは
三年前のどうしようもない俺だった
「祥、聞いて」
「……」
「俺は三年前、無理矢理に祥の事を抱いた。 それから祥は俺のことを好きになってくれたけど結局今こうなったのはあの時間の報いだって思ってる」
「……報い?」
「祥を傷つけた。 なのに祥が許してくれたからって見ないふりして隣にいた……だからもう二度とそんな間違いしたくないから聞きたい」
「なに……?」
「祥は今……、幸せ?」
「ーーッ」
息をのむ音が聞こえて
祥の体から力が抜けていく
やがて静まり返った部屋に響いた声は
頼りなさ過ぎて笑えてしまうほどか細い声だった
「……幸せ、だよ」
「……」
「俺は……幸せ」
「じゃあなんで俺の目見てくれないの?」
「ッ、見たくない」
「もし本当にその言葉が嘘じゃないなら俺の知ってる小日向祥って人間は嫌になるほど真っ直ぐな瞳で言うはずだ」
「そんなの」
「……」
「そんなのもう俺じゃないッ」
「祥……一体何を隠してるんだよ」
「何も隠してないし俺は三年前の俺じゃない……なんで、なんで放っておいてくれないんだよ……ッ」
「それは──」
────まだ祥を愛してるから
頭に浮かんだその言葉は
どうしても喉に詰まってしまう
飲み込んだその言葉達がぶつかり合う度
言い知れない苛立ちや虚しさがこみ上げてきて握りしめた拳は震えていた
「もう関わるなってば」
「出来ない」
「うんざりなんだよ!」
「祥……ッ?」
「直輝にうんざりしてるんだってなんで気づかないんだよ……ッ。 直輝のペースに乗せられるのも、直輝に付き合わされるのも、からかわれるのも何もかも嫌になったんだってどうして……どうして気づかないの……ッ」
「……ッ」
「綺麗に終わらせたかったから嘘をついたのに……もう全部意味無いじゃんか……」
「……は?」
『綺麗に終わらせたかったから』
その言葉を聞いた途端身体中が煮える様に熱くなり、動かなかった体は弾かれるように前へと歩み出す
苦しそうに顔を歪めて話した祥の肩を掴むとずっと塞ぎ込めていた醜い感情が溢れ出した
「綺麗に終わらせたかったからってなんだよ……? 綺麗に終わらせたかったから三年前も嘘をついたのか?」
「……ッ」
「今も、三年前も全部全部嘘だった? 祥がただ好きで……男同士はやっぱり未来が無いって、俺の子供が見たいって結局は同性同士の終わりを語ってるんだって俺は、だから祥の言葉も夢も疑うことなく信じて身を引いた……っ」
「離せ……」
「だけどそれも全部綺麗に終わらせる為? そんなのふざけんな……だったらなんでとどめを刺して行かなかった? 本当に綺麗な思い出のまま全てを過去にしたいんだったらどうしてお前はあの時俺に"もう好きじゃない"って、"嫌いだ"ってとどめを刺して行かなかったんだよッ!」
「ーーッ!」
「何が……綺麗に終わらせたい……? ただ傷つくのが怖いだけだろ。 結局こうやってお互い怒鳴りあって友達の関係にも戻れないほど拗れてる」
「……なお」
「終わらせるべきだったのは三年前のあの時だったんだよ……俺も、祥もしっかりと本心で話してれば今はもっと違う二人だった」
「……」
声を荒らげた俺を見て懐かしいその呼び名で呼ぶ祥の瞳が陰っている
いつからだったか
俺のことを直輝と呼ぶようになったのは
ずっと『なお』と呼んでいた祥が
急に俺を直輝と呼び出したのはいつからだったのだろうか
そんな祥が懐かしいその呼び名で俺を呼ぶ時は決まっていつも余裕が無い時なんだってサインに気づいたのはいつだっただろうか
そんな今思い出しても無駄な記憶を思い返す
湧き上がる苛立ちを必死に抑え込んで
早鐘を打つ心臓を落ち着かせてそれでも尚名残り惜しくて離すことのできない祥の肩はさっきよりもずっとずっと、震えていた
「……じゃ……ぃ」
「……」
「直輝の事……ッ……」
「ッ」
「直輝の事、もう好きじゃない」
「しょう……」
「ごめんね……言うの遅くなって。 直輝、俺はもう好きじゃない。 直輝の事──」
聞きたくないと思うのは悪い事何だろう
女々しくて、往生際が悪くて、身の引く事が出来ないどうしようもない男だって笑われても仕方ないぐらい今の俺は格好悪くて情けないやつだ
進むためにはその言葉が必要だと思ったのに
今でも好きな人の口から直接聞くにはあんまりにも酷で
だけどすんでのところで届かなかった掌は無情にも零れた言葉を隠すことさえ叶わない
「────嫌いだ」
「……」
どうして今になって俺の瞳を覗き混むんだ
さっきまであんなに逸らしていたくせに
見たかった筈の瞳に映ったっていうのに
今はそれがもっとどん底へと突き落とす
俺達はもう戻れない
あの日の続きは、今、絶たれたのだから
そう気づかされた俺に
一番初めに映った始まりの世界には、
キラキラと輝きながら飛び散った硝子の破片が鈍く、鈍く、輝きを放っていた
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