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撮影旅行
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「まあそれにしても天気悪いな〜! 雨降るのも時間の問題か」
「……」
「なんか飲むか? コーヒー貰ってくる」
「……要らない」
「……そっか」
空気を変えるためにわざと明るい声を上げて爽が声をかけてくる
コーヒーを断ってもう一度椅子に腰掛ける俺に続き爽も静かに椅子へ座るのを見るとそちらへ顔を向けた
「……爽」
「ん〜?」
「当たって悪かった。 お前の言う通りだよ、ずっと気がたってたし情けないけど八つ当たりした」
「……ふはっ、なーんか直輝が素直に謝るのって気味悪いな」
「……うるせーよ」
クスクス笑う爽の足を軽く蹴ると
もっと肩を揺らして笑う爽が憎たらしくもいいやつだと思った
ふと窓の外を見れば、朝とは違ってどんよりと厚い雲に太陽はのみ込まれている。さっきまでキラキラしていると爽が楽しそうに見ていた海も今では荒れていて真っ黒の波を何度も押し寄せては引いていた
その景色を見ていると胸がザワザワとして落ち着かない。いたたまれなくなった俺は再び瞼を閉じた
「……なあ」
「ん?」
「一つ聞きたいんだけどさ」
「……」
「……また女遊び始めたのか?」
「なんで?」
「……噂で聞いた」
「ふっ、そんなのただそこらで出会った女の荷物を拾ってやっただけでもありもしない噂にされる世界なんだから一々鵜呑みにすんなよ」
「……じゃあ今回お前の相手役の女の子とは何もねーんだな?」
「……」
「噂とは違ってお前といい感じだって」
「……そんなんじゃねーよ」
「……でも否定はしねーのな」
やけにトーンの低い話し方が気になって目を開けば何とも言い難い苦しそうな顔を浮かべた爽がいた
「何もないよ、ただ飯食っただけ」
「……」
「やけになってめんどくさくて確かについて行ったよ」
「じゃあ」
「でもただ飯食っただけだ。 それ以上の事はないよ」
「……」
「信じられない?」
「いや……直輝がそう言うなら信じる」
「……魔が差したのは俺も悪かったよ。 でも二度と女遊びはしない俺は」
「……」
「またそうやって逃げたら結局本当に俺は何も変わってないって自分に唾かけたくなるほど腹ただしいしな。 半ば意地みたいなもんだけど」
「祥君となんかあった?」
「……」
「まあ別に話さなくていいけどな。 女でもあるまいし聞くことに意味なんか求めたりしねーし俺は」
「悪い」
「でも一人で考えすぎて余裕なくなって苛々してたら直輝が性悪だって知らない周りは驚くだろ? そしたら評判も落ちるしお前も一応立派な役者なんだから気をつけろよ」
「……ふっ」
「笑うところじゃねーだろ」
「いや、まさかこうやって爽に説教されるとは思わなくて」
「ふふん、だって俺の方が歳上だからな!」
「……爽って本当に残念なタイプだよな。 余計な一言が多いんだよ」
「な……!」
自尊満々な爽を見て思わず笑ってしまう
何だかんだ言っても爽は仕事に対しては結構真面目だ
それは少なからず爽の父親が大型俳優である事が関係してるんだろうとは見ていて想像がつく
何をするにも爽と父親を天秤にかけられているのを見たことがあるし、いつでも馬鹿にされないように演じている時は真剣だった
だけど何処か息苦しそうなのは
きっと勘違いでもないんだろう
「爽」
「なんだよ」
「俺は認めてるよ」
「は?」
「たまに本気で殴ってやりたくなるけど爽の事は認めてるし頼ってる」
「な、なんだよ急に! 別に全然嬉しくねーからッ?!」
「……」
「そんな安い褒め方したってな! 俺は、全ッ前なんだからな!」
こういった子供っぽいアホなところはどうかと思うけど
爽の存在が思った以上に大きいってことは認めざる負えない
現にあんなに苛々していた息苦しさは今はないのだから
隣に居る煩い爽の気持ちに応える為にも
確かにいつまでもイライラはしていられない
それに
ついこの前聖夜に言われた言葉
「お前だけでも諦めるな」
その言葉が何を意味してるのかなんて分からないし、その時は真剣に聞く気もなくて無理矢理に終わらせてしまった
俺が諦めなかったとしても
終わった事にどうすればいいんだって、往生際の悪いストーカー男にでもなれってことかなんて悪態ついてしまったけど
長い付き合いの聖夜の言葉は考えを振り払ってもつきまとってくる
今もこうして頭に浮かぶその言葉の真意を探ってはいるけどズキズキと痛みを増す頭痛に眉間のシワを寄せてもう何度目かも分からない溜息をこぼした
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