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始まる未来、進む道
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ピリリリリ、と鳴り響く電子音によって目を覚ます。何か夢を見ていたような気がした。悲しくて、寂しくて、何か大切な夢だった気がして、でも思い出せないまま手を伸ばして携帯を手に取る。
「……はい」
『もしもし? 体調どうですか?』
「ん……たい、ちょう?」
『……祥さん、寝ぼけてます?』
携帯の先、聞こえてくるのは結葵君の声。頭がガンガンして身体が寒くて震える。壁に掛けてある時計を見れば既に昼を迎えている事を示していてハッとした。
「し、仕事!」
『いや今日は休みだって怜さんが言ってました』
「え、怜さん? ちょっと待って……昨日からの記憶がない……何で俺家いるんだろ」
『……昨日、祥さんが突然体調が悪くなったからって事で天使さんが付き添って帰ったの覚えてないんですか?』
「……覚えて、無い。 直輝が?」
『主役が居ないから皆ぶつくさ文句言ってましたよ』
「ご、ごめん……折角の打ち上げだったのに……」
『嘘です。 元々、天使さんは仕事の都合で出れなかった様です』
「そうなの……? 仕事大丈夫だったかな」
『さあ? 本人に聞けば良いじゃないですか』
「……」
『祥さん邪魔する僕が消えたって言うのに天使さんと話してもないですよね』
電話口の向こう、きっといつもと変わらない冷静な顔をした結葵君がつまらなさそうに話してる姿が目に浮かんだ。
『なんで話さないんですか』
「なんでって……」
『僕が邪魔する前はもう二人しかこの世界にいないみたいだった癖に』
「なんだよ……。 何か怒ってる?」
『怒ってます』
「結葵君……」
『怒ってるから、腹立つんで言う事にしました』
「え?」
一体何を────そう思った次の瞬間、聞かされた内容に収まっていた痛みが疼きだす。それは止まることなく波のように押し寄せてきた。
『撮影から帰ってきて直ぐに、僕、天使さんに呼ばれたんです』
「え?!」
『祥さんのことどう思ってるのか聞かれました。 隠しても仕方ないので僕も全て包み隠さず話したんです。 てっきり祥さんの事になると天使さんは少し頭が悪くなるから飛びかかって来ると思ったのに……あの人、祥さんの為に静かに頭下げてましたよ』
「ーーッ」
『祥の事を傷つけないでやって欲しいって。 本気で好きなら祥と真っ直ぐに向き合って欲しいって……何の冗談かと思うぐらい、僕の事今すぐ殺せるぐらい怒っていた癖に真っ先に貴方の事を思ってました』
「……なんでそんな」
『────好きだからでしょ』
「え……」
『ただ、シンプルに天使さんは本当に貴方を好きだからでしょう?』
「……っ」
結葵君の言葉に息が詰まった・・・・・・
そうだ、ただ単純に好きなんだ。グタグタ悩んで、色んなこと考えて、守るとか守りたいとか、幸せになって欲しいって、そう思うのだって全部は好きだから。直輝が好きだからそう思うのに、単純に人を想う心が色んなことに隠れて霞んで居た。
好きでいる事自体を否定して、自分でそれに傷ついて。好きな癖に好きじゃない振りをして……そんな事をしたって心は変わらないのに。
『天使さんはただ貴方を好きなだけなんですよ。 貴方を好きなことでやっと天使さんの世界は出来てるんです』
「……」
『祥さんは自分が我慢すれば何とかなるならそういう選択をするけど。 天使さんには貴方と一緒に幸せになる事を考えて生きてる。 いつだって自分の一部のようにあの人は貴方を思ってる』
「……ッ、結葵君」
『最後まで聞いてください』
「……」
『祥さんも、そうでしょう? 祥さんも天使さんと同じく自分の一部のように天使さんを好きでいるんじゃないんですか? だから二人揃って自分の気持ちで精一杯傷ついてる癖に、それでも相手の痛みまで分かってしまってもっと傷ついてる。 何倍にも悲い思いをしてる』
「……もう、いいよ」
『守りたいのは誰の"人生"なんですか?』
誰の人生・・・・・・?
そんなの、直輝の人生だ。直輝の生きてる時間に多くの幸せがある事に越したことはない。直輝が笑う笑顔が偽物や嘘じゃなくて、心から零れた幸せの笑顔であってほしいって願わないわけがない。
そんな直輝と一緒に生きていられたらどんなに幸せかって。どんな事でも直輝と居るならへっちゃらだってそう信じて、二人の人生を守りたかったんだ。
『離れるとしても、伝えなきゃならない言葉を、言わなきゃならない相手に伝えない間はどれだけ足掻いたって抜け出せません。 どれだけ相手を傷つけたって、気持ちも晴れません。 どれだけ泣いたって、心からなんて笑えません』
「……ッ」
『僕、祥さんが好きです』
「え?!」
『いつも優しい祥さんが、繊細に見えて我の強い祥さんが、頑固な貴方が、何度でも信じれる強い貴方が────僕は大好きです』
「結葵君……ッ」
『僕は言いましたよ。 こんな言葉大嫌いだし今も自分で口にしといて虫唾が走ってます。 でも自分の為に言いました。 僕の気持ちを聞いて貴方が傷つこうが知ったことありません』
「なんだよそれ……ッ」
『僕は今、僕の為に言いました。 祥さんは祥さん自身の為に伝えたい一言を、ちゃんと天使さんに伝えたんですか?』
「……言って、ない」
『だったらどれだけ願ってもそれこそただの自己犠牲に甘んじたエゴじゃないですか。 本当はその言葉でいっぱいの癖に。 そんな祥さんに例え別れを切り出されても誰の元へも行けませんよ。 嘘をついたって貴方達は分かってしまうんでしょ?』
「ーーッ」
ジワリと目が熱くなる。伝えたい。一緒に居れなくても、ずっと隣には居ることが出来なくても。「大嫌い」なんて嘘をついてしまったことはずっと、ずっと、心に残り続ける。最後に口にした気持ちがそんな嘘のままなんて本当は嫌に決まってる。俺だって伝えたい言葉があるけど、言ってしまえば、口にしたら、もうその時には全てが変わりそうで怖いんだ。
『例え未来で嘘になっても、その時伝えたい言葉に嘘はなかった』
「え……」
『これ、あの雷の日祥さんが僕に言った言葉ですよ』
「結葵君……ッ」
『自分の言葉には責任持って下さい。 偉そうに僕にそう言ったんだから。 祥さんだけ言わないまま逃げ続けるなんて卑怯だ』
結葵君の言葉に、真剣な声に、涙が出そうになって歯を噛み締めた
伝えたい言葉が一つだけある。どんな事を言ったって、どんな言い訳をしたって、どんな未来を選んだって。知っていて欲しいことが、忘れないで欲しいことが、大切な言葉があるんだ。
無理矢理に抑え込んでいた言葉が腹の底でぶつかり合う。飲み込んだ消えない気持ちが痛いんだと訴えている。
今すぐ伝えなきゃ。意気地無しになる前に、直輝に伝えなきゃならないんだ。
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