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始まる未来、進む道
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結葵君との電話を切った後、
棚にしまっていた箱を取り出した。
直輝からクリスマスにもらったピアス。
宝物で大切で死ぬほど嬉しかった贈り物なのに一度しか付ける事ができなかった。いつも見てるだけで、それも時間が経てば苦しくなるからって見えないところにしまい込んで。
そうやって本当はどんな事よりも伝えなきゃならなかった想いまで一緒に隠したんだ。
「……結葵君にもう一度お礼言わなきゃな」
別に何もしてません、なんて言っていたけどそんな事ない。携帯を開いて結葵君へ連絡を入れようとして手が止まった。
──『不在着信』
二時間も前に残された、直輝からの不在着信。眠っていた時にかかってきたもの。残されたその着信履歴と、留守番電話のマークをタップして流れる音声の後聞こえてきた直輝が残した言葉を聞いた俺は
「……ッ、嘘だ……。 直輝、ッ、直輝……!」
考えもせず弾かれる様に家を飛び出していた
「はあ、ッ、はぁ……っ」
家を飛び出して大きなとおりまで真っ直ぐに駆け出す。流れるように走る車の列の中、タクシーを見つけ捕まえるなり行き場所を告げ飛び乗った。
「羽田空港まで……ッ! 急いで下さいっ」
そんな焦ったって時間は止まらなければ遅く進むはずも無い。けれど冷静になれと宥める一方で迫り来る不安に胸が押し潰されそうだった。
もう、間に合わないなんて分かってる。
フライトの時間はとっくに過ぎていた。残された場所には直輝が居ただけの後の殻だけで、行ったところでもう・・・・・・
でも、でも、行くしか無かった。もしもまだ居たなら、何かがあって居てくれたなら、その時は・・・・・・。
「お客さん、そろそろつきますよ」
「ッ、本当ですか!」
「でもここから直ぐ何ですけど車寄せるのに時間が」
「ここでいいです! 降ります!」
時間なんてかけてられない。1分でも、1秒でも、どれだけの時間でも待ちきれない。時間は待ってはくれない。
タクシーを降りてから真っ直ぐに真っ直ぐ走った。迷うこともしないで、考える事もしないで、あんなにすれ違っていた時間が嘘みたいに。 "直輝が居なくなる"、それだけの事が頭の中を埋めてく。
「ハァハァッ、……けほっ、げほっ……ッ」
ニューヨーク行きの便を探して、多くの人が行き交う中を掻き分けてたった一人の姿を探す。
どれだけ人が多くても見失わない。どんな似てる人が居ても見間違わない。ずっと直輝だけを見てきた。
見当たらない姿に、悔しくて、息苦しくて、クラクラしてくる。もう行ってしまったなんて分かっていても探すことをやめられない。可能性が0じゃないなら、辞めたくない。
「あ、のっ! 午前のニューヨーク行きの便って」
「そちらの便は先ほどフライトしてしまいました」
「ーーッ」
分かっていた・・・・・・
分かっていたけど、でも、でも
「午後の便……午後のニューヨーク行きの便って、余ってますか? 何時でも構わないので、今日、……今日行けるものっ」
「で、でしたらこちらの便ならまだお座席が余っております」
「それっ! 一人分ッ、お願いします!」
「かしこまりました」
行く宛も、行ってどうするかも決めていない。何も宛もなければ考えも纏まってだっていない。だけど気づいたらもう、止められなかった。
払い除けた手を何度も捕まえてくれようとしたその手を、俺は容赦なく振りほどいた。もう遅いかもしれない……。直輝に虫のいい話だと思われることだって覚悟だ
それでも、最後に一言伝えたい言葉があるんだ
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