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テキーラ・サンライズ
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◆
「最近瑞生さー付き合い悪くね?」
「彼女でも出来たのぉ?」
美容学校で何となく仲良くしてる知り合い達に今日でこのセットのセリフを聞かされたのは何回目だろうか。
皆違うグループの人だって言うのに俺を見るなり聞いてくる言葉は皆同じだった。
「んー、内緒」
そしてこう返事を返すのも、もう何回目かな。
笑って流すように答えればやっぱり気に食わないのか後を着いてくる。
めんどくさくなって教室を出てどこか静かなところへ行こうとした時、見慣れた子を見つけた。
「祥〜」
「ーーっ! 瑞生さん!」
後ろ姿だけでわかるその人の肩を叩けば、俺を見るなり驚いた顔をして花のような笑顔が咲く。
たれ目をもっとふにゃりと垂れさせて、真っ白な頬はほんのりと色づく。
ああやっぱり可愛いなぁと思うわけで、誰と話しても何も感じない癖に祥に対してはどこか少し気持ちが弾むのは仕方が無い事だ。
それと、そんな可愛い祥の後について回るのは直君の残像で。
相変わらず直くんもこんな可愛い恋人が居たら毎日不安だろうと、ほんの少しだけ同情した。
「こんな所で何してたの?」
「この荷物第三実習室に運ばないとならなくて」
「ふ〜ん。 これ一人で?」
「今日の担当が休みなんで」
「そっか、じゃあ俺も手伝うよ」
「えっ?! いや、大丈夫ですよ!」
「でも一人じゃ無理だから困ってたんじゃないの?」
「う……すみません」
「たまには人に頼りなってもう何回も言ってるのにねー」
「ご、ごめんなさい……」
ちょっと意地悪に刺のある言い方をすればシュンっと悲しそうな顔をする。
見えるはずのない尻尾が丸まったように見えて、クスクス笑いながら頭を撫でれば、無自覚であろう上目遣いで見上げられた。
こういうの本当に良くないと思う。
その気が無くてもドキッとするし、祥は男なのが勿体無いほどに美人な顔立ち何だから、年頃で下半身が頭のような雄にとって祥のこの鈍感さは凶器だろうな。
「直くんも大変だろうねぇ」
「え? なんで直輝なんですか?」
「んー、祥が可愛いから大変だろうなって」
「ーーッ?!」
「ふふっ、そういう反応とかね」
「か、かっ、からかわないでください!」
「からかって無いけど……あ、それより祥はクリスマスはやっぱり直君と?」
「あ、はいっ! 直輝と家で過ごそうかなぁて」
「そっか、楽しみだね」
「はいっ!」
ニコニコと今迄のどんな会話よりも一番綺麗な笑顔で祥が話す。
直くんの話をする時の祥は、どんな笑顔よりも比べ物にならないほどに幸せそうな笑顔で綺麗な顔をして笑う。
でもこんなに分かりやすいのに、ここに例えば直くんが居れば眉間に皺を寄せてムッとした顔して「なんだよっ」なんて言っちゃうんだから本当に可愛い。
祥も直くんもどっちも本当に可愛いと思う。
傍から見てる第三者の俺でさえも二人を見てるのは心が暖かくなるんだから不思議だ。
「直輝甘いの大好きなんですけど、やっぱりケーキはお店で買ったほうがいいですよね」
「んー? 俺は祥の手作りがいいと思うよ」
「でも、最近仕事で忙しいから美味しいの食べて欲しくて……」
「ふふっ、なら尚更祥が作ってあげなよ」
「……俺のでいいのかな」
「祥のがいいんだと思うよ」
直くんなら例えばチョコケーキのチョコが泥で出来ていても美味しいと言って食べるだろうしね。
「頑張って作ってみようかな……」
「うん、自信もって? 絶対喜んでくれるから」
「はい! ありがとうございます」
「いいえー。 あ、でも俺とこんな話をしたのは黙ってた方がいいかもね」
「なんでですか?」
「直くんの事だから嫉妬しそう」
「あー……あはは……すみません」
「気にしないでいいよ」
「本当、過保護なんですよ直輝は」
「んー、ふふっ、でも嬉しいんだろ?」
「へ……?!」
「口元、にやけてるよ」
「〜〜ッ」
文句を言っていても愛がたっぷりなのは見なくても分かる。
不満を口にしていても祥の顔はにやけていて、見ている俺まで砂糖を舐めた気分になってきた。
まあ、二人が仲良くやっていけてるって証拠だから俺としては嬉しいし、やっぱりあの日祥を直くんの元へ行かせて良かったと思うんだ。
「着いたー」
「瑞生さんありがとうございました! 遠いのにここまで運んでくれて、本当に助かりました」
「ううん。 また何かあったら言うんだよ」
「ありがとうございます」
礼儀正しくお辞儀する祥の頭をポンポンと撫でる。
これをもし直くんが見たなら今にも鬼のような覇気を纏って笑顔で「どうも」なんて言いながら祥を背中に隠しちゃうんだろう。
そう考えるとほんの少し直くんにしてやった気持ちになった。
たまには俺にも祥を可愛がらせて欲しいなぁ、なんて意地悪な気持ち。
そんな事を考えていた時携帯の着信音が鳴り響く。
「あ! 直輝だ!」
「……」
わあ、本当に凄いな。
なんてタイミングのいいことだろうかと、まるで俺が少し悪戯をしようとしたのを阻止するかのようにかかってきた直くんからの電話に、またクスクスと笑みが零れた。
きっと祥センサーでも付いてるんだろう。
「今日の放課後? 開いてるよ!」
嬉しそうに目をキラキラ輝かせて話をする祥を見て笑みが零れる。
……俺も耀さんに早く会いたいかも、なんてそんならしくない事を思った昼休みだった。
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