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傷だらけのラブソング
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核心に迫ったのは数時間後の事だった。
「もう二度と恋なんかするかーっ!」
仕事終わりに寄ったファミリー居酒屋で僕達3人は遅めの夕飯を口にしていた。怜さんに飲ませられたお陰でべろべろに酔った祥さんが大きな声を上げ、そのまま後ろへ倒れ込む。右手にはお猪口を、左手には焼き鳥の串を持って。
普段の品がある姿からはとても想像出来ない荒れっぷりだ。
「……祥さん好きな人居るんですか」
「好きな人〜? あははっ、居ないよぉ、そんな人」
我慢出来ずに聞いてしまった、的を得てるだろう僕の質問に零れんばかりの大きなタレ目を見開いた祥さんはひとしきり笑うと、お猪口へ燗酒を注ぎ一気に煽ってこう続けた。
──愛してる人はいるけどね、と。
その余りにも凛とした真っ直ぐな声に今の今まで絡み酒をし、酔っ払っていたのは勘違いかと思わず口を閉じたがそれも直ぐに馬鹿な疑念だったと気づく。
ゴツと痛そうな音を立てて祥さんのおでこが机へと崩れていく光景を見れば、逆にさっきの一瞬であったが凛とした声こそが幻に思えた。
「ふっ、なんちゃって〜……。 ……もう、いいんだけどさぁ、どうせ一緒にはなれないし。 違う形の幸せもあるんだなって……それも今は全部言い聞かせるので精一杯だけど、でもそうしなきゃやってらんないよね」
どこか遠くを見て話を続ける祥さんはそれからも誰に伝えるでもなく、酒でまともに回らない呂律で話す。
はっきり言って相手が誰なのか、どんな付き合いをしていたのか、どうして終わってしまったのかそういう事は何一つ分からないままだったけれど祥さんがその誰かと付き合っていた背景は幸せだったのだと言う事だけは十分に伝わってきた。
過去の思い出話をする祥さんは見た事ない程笑顔で、憎まれ口を叩く。
誰にでも優しく汚い言葉を使わない彼が「アイツ」や「最低で意地悪なクズ」とまで言うのだから僕はただただ驚くばかりだ。
「は〜……愚痴はいたらスッキリしちゃった……あ、そろそろ俺帰るね」
「えっ……?!」
ふらふらと体を揺らしながら急に立ち上がるものだから驚きのあまり呆けた顔をしてしまう。
当の本人はいつの間にか消えた怜さんは何処だと今迄の過去の話を綺麗さっぱり忘れているかのように切り替えが早くて、僕はそんな酔っ払いがどこかに頭をぶつけて倒れてしまうんじゃないかと心配する事で忙しない。
結局いつの間にか今晩の相手を見つけ何も言わず勝手に帰った怜さんに苦情の連絡を入れた後、僕は眠りに落ちそうな彼をタクシーに乗せて家路についた。
「祥さーん、流石にそのまま寝ると明日悲惨な事になりそうなんで着替えて下さい」
「うー……ん、うん」
ベッドでぐったりしている体に手を差し伸べると、細くて華奢な手のひらが重なる。
その手をしっかりと握り引っ張り起こすと祥さんは「おお〜!」と訳の分からない歓声をあげた。
そして、その後に聞いたことのない名前を呼び僕を見た。
「なおは力持ちだよね〜」
「……え?」
夢と現実の区別がついて居ないのか、祥さんは僕の手を握ったまま綺麗に微笑む。
その表情を見て、あ……僕のことをその「なお」とやらと勘違いしているんだと気づいた。
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