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傷だらけのラブソング
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直ぐに出ていこうと思ったのに、タイミングは何故か機会を奪ってばかりで部屋の飾り付けを任された分足早に部屋を出ることは叶わなかった。
それもこれもこの低脳さんのお陰さまだけれども。
「なあ、祥君一つ食べていい?」
「駄目ですよー、そう言ってさっき沢山食べてたの見てましたからね。後でお酒と一緒におつまみは食べてください」
「え〜、でも祥君の可愛さに免じてここは諦めようかな」
……。
なんだか本当にイライラする人だ。
「可愛いって男に使う言葉じゃないですよ」
「いやー美人には美人って言うだろ? 祥君は美人だしな、華奢だし、いつもいい匂いするし」
「あっ! そういうことばっか言っておつまみ食べようとしてるなら駄目ですよ!」
「違うって〜やっぱり祥君可愛いなぁってさ〜」
キッチンで二人して駄弁って居るのを見て心底気分が悪くなる。
そんなに祥さんが好きか。僕をここまで連れてきておいて、ほったらかすぐらいなら始めから連れてなんか来なきゃ──
「……」
なんで、だ……。どうして僕は今苛立ってる?祥さんの事を口説いてようがヘラヘラ間抜けな顔を晒そうが何の関係もないって言うのに、なんでこちらを見ようともしない態度にこんなにも腹が立つんだ。
「祥君さ、そういや香水付ける様になったよな?」
「へっ?!」
「ん、なんだぁ? その反応はちょっとやらしいね〜」
モヤモヤと霧がかった様な居心地の悪さに眉間に皺がよる。
この感覚知っている。祥さんの前に天使さんが現れた時と同じだ。龍騎が野球の推薦で遠くに行ってしまうと聞かされた時と同じだ。
グルグルと目の奥が回るようで、音がすべて遠くに感じる。鳩尾の辺りが重くて、どうしようもなく。
──どうしようもなく寂しい。
「こ、この香水直輝から、誕生日にもらって」
「……へー、直輝か。さすがいいセンスしてるな」
チクリ、また棘が刺さる。ポツリ、遠くで雨粒が弾ける音がする。
そうだ。爽さんはまだ天使さんのことが……。なのにどうして僕は爽さんのことを──
「二人とも、さっきから口ばかりで手が動いてません。僕は飾り付け終わりましたからもう帰りますよ」
「え、ダメダメ! 飾り付け終わったら次は、えっと……テレビ見てて!」
「祥さん諦めて下さい」
「えぇ……駄目だよ帰っちゃ……あ! ちょ、ちょっと待ってね確か向こうにクラッカーが」
助け舟になっただろうか。
この隙に全く笑えていない表情をなんとかして欲しい。
必要以上に近い爽さんから離れると、パタパタ小走りでリビングを出ていく祥さんの背中を見送る。
さっきまでの軽薄さと元気の良さはどこへ消えてしまったのか、天使さんの話ですっかり静かになってしまった爽さんの脛を軽くつま先で蹴ると、固まってしまっている頬を抓ってやった。
「傷つくぐらいなら聞かなければいいのに、とは思わないんですか」
「……え?」
「何腑抜けた顔してるんですか。天使さんのこと、まだ好きなんでしょう? なのに二人が仲良くしているところ見たらもっと落ち込むじゃないですか」
「あ、いや、そうじゃなくて」
僕の言葉をやっと理解したのかどこか慌てた様子で早口に否定をする。
その態度は僕への罪悪感か。セックスはするけれど、気持ちは他所にある事への言い訳か。そんな事しなくていいのに。僕は爽さんの慰め者でも今は十分かもしれない。
本当、とことん馬鹿だと思う人間は。
爽さんも、僕も。
「俺が今考えてたのは──」
必死な顔。真面目な声音。震えている瞳。
そこまで懸命にフォローなんてしなくていいのに、と爽さんの言葉を遮ろうとした刹那廊下の奥から扉の開く音がした。
それは部屋の扉ではなく、玄関の扉特有の重い音が、だ。
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