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夢のあと
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「なんか……うまく言えないんですけど……とにかく、すごく楽しい夢だったんです!」
夢の余韻を残したまま碧がそう言うと、桐生がふっと笑みを漏らした。
ここは桐生のマンション。
恋人であり碧の通う高校の担任の教師である桐生誠一郎(きりゅうせいいちろう)の部屋で留守番を任されていた月島碧(つきしまあお)は、寝惚け眼を擦りながら、帰宅した桐生に今まで見ていた幸せな夢の話をしていた。
「珍しく昼寝をしていると思えば、夢の中でまた昼寝をしたの?」
優しい眼差しを送る桐生は目を細め碧の話を聞いていた。
その姿はとても美しくて、母親がクォーターだと言っていた髪色は淡い飴色で、瞳は綺麗な琥珀色をしている。
整った顔の造形は西洋人の顔というわけではないのに、やっぱり同じ人種とは思えず、碧はいつ見ても馴れない桐生の美しさにまた胸の鼓動が早くなっていくのを感じる。
「……本当だ……俺、夢の中でまた寝ちゃいましたね…」
そう真顔で言う碧に桐生はまた笑みを零す。
「待たせて悪かったね」
そう言った桐生が上着を脱ぎながらソファーの碧に近づいた。
そして響く、ちゅっという小さな破裂音。
「あ………っ」
優しく額に押し当てられた感触は柔らかくて、自分が何をされたかを理解した碧は顔を赤らめた。
「お腹空いたでしょ?」
何でも無いような顔をされてそう聞かれてしまうと、碧は恥ずかしくなってしまって俯いてしまう。
「ちょっと遅くなってしまったけど、お昼を作るからもうちょっと寝てていいよ」
そう言われて頭を撫でられると、子供扱いなのは少し寂しいけれど、やっぱり嬉しくてその感触に目を閉じそうになる。
「……ち、近くで…見ててもいいですか?」
夢の中でさえ待っていたせっかくの桐生の帰宅を寝て過ごすなんて出来そうになくて、碧は桐生を見上げる。
「見てるだけ?」
間近で微笑む桐生の口の端がすっと上がる。
!
「て、手伝ってもいいんですか?」
「もちろん」
桐生の微笑みに碧は嬉しくてソファーから飛び起きた。
今まで桐生が料理をする時は待っていなさいと言われるから、ずっと待っているだけだったけど、自分から申し出ればこんな展開になるのだと言うのを知らなかったのだ。
大好きな桐生と何かを一緒に出来ると思うと酷く嬉しくなってしまって、その後を追った。
「あ、そうだ……これ」
桐生がハンガーに掛けようとしている上着のポケットから何かを取り出し、碧に差し出す。
「?」
「貰い物だけど、碧にあげるよ」
そう言われて手渡されたのはプラスチックの容器に入った小さな金平糖だった。
季節外れの紫陽花に見立てられたパッケージに包まれたそれは、色味の違う数種類の紫色で構成されていてとても美しい。
「わあ……綺麗ですね」
「どこかのお土産だと言ってたよ」
碧は手の中で咲く小さな花たちを揺らしてみる。
からら…とケースの中で移動する様々な紫色。
「ひとつ食べてみてもいいですか?」
「どうぞ」
桐生の返事に碧は青色の強い金平糖をひとつ口に放り込む。
少しゴツゴツとしたそれは碧の舌に温められじきにシンプルな甘さを口に広がげる。
「あ……これ……!」
口の中で溶けていくその既視感にさっき見たカーニバルの余韻が甦る。
楽しくて陽気なカーニバル。
すごく幸せだったけど、やっぱり最後に願ったのは桐生の存在だった。
「何?」
もうキッチンに向かっていた桐生が振り向いた。
「………夢で見た味…です」
碧の言葉に桐生はまた笑った。
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