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ホログラムのこちら側 狡縢
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「うわっーーー!」
まただ
最近同じ夢ばかり見る
勿論、いい夢ではないのは確かだ
しかし、現実に起こった夢ではない事も確かだ
汗ばむ体を起こし、星空のホログラムを消した
壁に映し出された時間は深夜2時
昔で言うところの丑三つ時ってやつか
実際、その昔と言うのは話や本では知っているが、人を呪い殺したりするような非現実的な事は信用出来ないし、服をいちいち買って着替えたり、車も自分で運転する事も正直信じられない話だ
幼い頃、古臭い絵本を見たことがある
内容は2000年には車が空を飛んでいると言う話
しかしいまだに車は空を飛ぶ事は出来ないが、2000年に比べ色々と進化はしているし生活環境も著しく変化しているのは確かだ
少なくとも、昔ならサイコパスの識別鑑定もなかったし仕事も自由に選べたはずだしね
「コウちゃん、大丈夫?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
心配そうに覗き込む縢と目が合った
「すまない、起こしてしまったな」
「そんな事はいいけど、嫌な夢でも見た?」
「いや」
ベッドから降りて、冷蔵庫から適温に冷えた水を取り出し、一気に飲み干した
夢は厄介だ
見たくなくても見てしまう
だからと言って睡眠をとらないわけには行かない
けど夢まで操作されるのはごめんだ
空のペットボトルをゴミ箱に捨てて窓から見える夜景を見つめた
外の世界は相変わらず賑やかだ
深夜だと言うのにどこから人が湧いて来るのか
「何見てるの~?」
後ろから抱き着いて来た縢の手を握り締め「何でもない」と短く答えベッドに戻った
「コウちゃんはさ、俺の事好き?」
「どうしたんだ、突然」
「ん・・・何となく」
捨てられた子犬のような瞳で俺を見つめる縢の頭を撫でて微笑んだ
「好きだからこうして同じベッドの中にいたんだろ?」
「そうだけど・・・」
「まだ不安なのか?」
「不安と言うか、立場的にもさ・・・やっぱバレたらただでは済まないんだよな~とか、考えるわけでさ」
「立場ね・・・馬鹿らしい」
確かに俺は監視官でこいつは執行官
同じベッドにいる事など普通ではありえない事だ
「俺、コウちゃんに迷惑とかかけたくないし」
「迷惑?」
「ん・・・上手く言えない」
「迷惑だと思っているのならお前はここではなく自分の部屋で寝ているだろ?」
「そうだけどさ・・・そうだよね、ごめん」
同じ人間なのに、同じ事を考える事も出来ない世の中
同じ気持ちのはずなのに、縢は自分の立場を考え俺の一歩後ろを歩いている様な感じだ
愛していると言う言葉も、何だか遠慮がちに聞こえてしまう
「二人でいる時は俺に遠慮しなくてもいいと言ったはずだ」
「うん、わかってる」
シュビラが何だ、サイコパスが何だ
ここにいる縢は素直で可愛い
濁っているのは俺の方かも知れないのに
そんな色の識別だけで人間の生き方まで変えられてしまう世の中にうんざりだ
「じゃ、遠慮しないで尋ねるけど」
「何だ」
「どんな夢を見たの?」
「・・・・・・・・夢の話が聞きたいのか?」
「うん、コウちゃんの事は全て知りたい・・・それにいつも冷静なコウちゃんがあんなに大きな声を出して起きるなんておかしい」
「そうかもな」
ベッドに戻り、タバコに火をつけて深く吸い込んだ
薄暗い部屋を漂う煙は紫色
夜景のせいかもな
「あくまでも夢の話だから気を悪くするなよ?」
「もちろん!」
「お前と・・・」
「俺と?」
「別れる夢を見た・・・それも普通の別れ方ではなく、無理矢理にね」
「えーー、そんなの嫌だよ!俺はずっとこうしてコウちゃんの傍にいたい」
「それで・・・・」
「それで?」
「お前は離れたくないと言って俺に駆け寄るのを見た男が・・・・・」
「ん?」
「やめよう」
「駄目!そこまで言ったんだし、最後まで聞くよ」
「・・・・・・・・・・お前が目の前で殺される夢だ」
「えっ・・・」
「だから夢の話だ・・・でも胸糞悪すぎて言いたくなかった」
「夢は夢だし、俺はこうして生きているだろ?それに逆夢かも知れないしね」
「逆夢?」
「そそ、殺されて消える夢の逆夢だったとしたら、ずっと一緒に居られるって事でじゃないかな~って」
「成程」
確かに、夢の話だ
気にする事はない
「俺はこうしてコウちゃんと居ればサイコパスも濁ったりしないはず」
「だな」
「むしろ今の俺のサイコパスはピンク色かもね~」
そう言って俺を押し倒し、額にキスをした
「押し倒されたついでにもう寝るぞ」
「はーい!」
縢を抱きしめると、少しは不安から逃れられるような気がした
むしろ不安と言う言葉自体おかしいだろ
今はこんなに幸せだし、生きている事にも感謝しているのに
所詮夢は夢だ
現実ではありえないはずなんだ
※
すぐに眠りに落ちた縢の髪を撫でながら、こいつと初めて組んだ時の事を思い出していた
訓練は受けて来たが、さすがに人間が人間を撃つと言う行為に戸惑いを隠せなかった縢
ドミネーターを初めて手に取った時の表情は今でも忘れない
とは言え、俺がこいつをこの世界に連れて来た人間
あの時は今のような感情は無く、あくまでも仕事として縢に会いに行った
執行官が嫌なら首を横に振って死ぬまで施設で暮らせばいいと思っていた
しかしこいつは俺の話を聞いてすんなり頷いた
話をしている時も縢は何故か上の空で、俺の髪をじっと見つめていた事が不思議だった
施設から出たいだけの人間には見えなかったし、執行官と言う仕事をこなす人間にも見えなかった
何が縢を動かしたのかと尋ねた時、こいつは笑顔で俺に言ったんだ
(色を与えてくれたから)と
ただそれだけかと尋ねたが、後は笑って誤魔化された
辛い事もあったはずなのに、こいつは耐えて来た
そして今では一人前の執行官になった
ドミネーターを持つ手も震えることは無い
そんな縢が今こうして俺の腕の中で眠っている
誰かを愛すると言う事ぐらい自由にさせて欲しいと願う
縢から気持ちを聞いた時は素直に嬉しかったし、あの海での出来事も忘れはしない
好きだから傍にいる
それが当たり前であるはずなのに、俺は女ではなく男を愛した
結婚して子供を作ると言うのは性に合わない
だからこのままでいい
ずっとこいつと一緒にいたい
それが俺の本心だった
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