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紙飛行機飛んだ N
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「あほくさ・・・・」
とんだ無駄遣いをしてしまった
突然声を掛けられて、立ち止まったのがいけなかった
まさか似顔絵を描かれるなんてね
本当ならお金なんか払う必要はないんだけど、あのおじいさんも生活があるだろうし
溜息をつきながら似顔絵を見つめ、そのまま適当に紙飛行機を作って小高い丘の上から飛ばした
「遊園地か・・・・・観覧車もある」
一人で行ってもつまらないけど、ここにいても仕方がない
夕暮れまでには着くかな?
せっかくだし行ってみよう
「いたっ!」
驚いた・・・・・・・
突然何かが頭に当たったけど何だろう
足を止めて振り返ると、地面に紙飛行機が落ちていた
「どこから飛んできたんだろう」
それにしても下手くそな折り方
よくこんな紙飛行機でここまで飛んできたな・・・・・・いや、飛んできたと言うより落ちて来たのかも
苦笑しながら紙飛行機を見つめ、綺麗に折りなおそうとして紙を開いた
「・・・・・・・・・・・・似顔絵?」
思わず手を止めて、紙に描かれた似顔絵を見つめた
意思の強そうな瞳
少し日焼けした肌
今にも話し出しそうな唇
全体的に無愛想な顔だけど・・・・・・・でも似顔絵だし描いてもらったのが気に入らなかったのかな?
「・・・・・・・・・・・・・誰だろう」
周りを捜しても人なんかいない
と言う事は、どこから飛んできたんだろうね
もう一度似顔絵を見つめ、綺麗に折りたたんでポケットに入れた
今まで、友達はポケモンしかいなかった
子供の頃からずっと一人だったし、それが当たり前だと思い込んでいた
寂しいとか、辛いとか、そんな感情もよくわからない
「じゃ、この感情は何だろう」
誰の似顔絵なのかもわからないのにすごく胸が苦しい
会えるはずもない人なのにおかしいね
「急がないと夜になってしまう」
さっき、丘の上で見つけた遊園地に行きたかった
あの大きな観覧車を近くで見たかった
遊園地に着いたのは夕暮れ前
人もまばらで何となく寂しい景色
「観覧車・・・・・・」
でも、一人で乗るのはどうなのかな
だけど、観覧車からの景色を見てみたい
周りを見回しても誰もいない・・・・・・あっ、一人いた
僕と同じように観覧車を見上げている人を見つけた
どうしよう
勇気を出して声を掛けてみようかな
おかしな奴だと思われるかな
「あっ・・・・・」
歩き出した
断られたら謝って立ち去ればいい
どうしても観覧車に乗りたい
だから急いで歩き出した後ろ姿を追いかけた
「あ、あの」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
声をかけた瞬間立ち止まり、ゆっくり振り向いたその人を見た瞬間、心臓が止まりそうになった
「何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・あの」
「あんた誰?」
どうしよう
今、目の前に居るのは似顔絵の彼だった
こんな偶然があるなんて
「何か用?」
早く話さないと行ってしまう
早く・・・・・・
「もしよかったら・・・・・一緒に観覧車に乗らないか?」
「・・・・・・・・・・・・・は?」
思ったとおりの返事
当たり前だよね
「ごめん、どうしても観覧車からの景色が見たかったんだ・・・・でも一人で乗るのは・・・・・ごめんね」
泣きそう・・・・・・
本当に馬鹿みたい
知らない奴に突然観覧車に乗ろうと言われても困るだけなのに
「あんたの名前は?」
「えっ?」
「名前」
「N」
「Nって言うんだ・・・・・俺はトウヤ」
「トウヤ・・・・・」
「いいよ、俺も乗りたかったし一緒に乗ってやるよ」
「本当?」
「ああ、行こうぜ」
「うんっ!」
どうしよう
すごく嬉しい
そのまま二人で歩き出し、観覧車に乗り込んだ
目の前にはずっと会いたいと思っていた彼がぼんやり外の景色を眺めていた
「あのさ、俺の顔に何かついてる?」
「えっ?」
「さっきから景色じゃなくて俺の顔ばかり見てるし」
「ごめんね・・・・・実はね」
そう言ってポケットから飛んできた紙飛行機を取り出し、トウヤに渡した
「な、なんでお前が持ってんだよっ!これは確か捨てたはずなのに」
「僕の頭の上に落ちてきたんだ」
「マジかよ・・・・・・最悪」
「とてもよく描けてるね、ほんとうにそっくり」
「やめろ」
「この絵を見た瞬間、ずっと会いたいと思っていたんだ・・・・・会えるはずないのにずっと・・・・・だからトウヤが振り向いた瞬間、心臓が止まるかと思ったんだよ」
「何だそれ」
「ごめんね、でも本当なんだ」
「・・・・・・・・・・・何で会いたいと思ったんだよ」
「何でって・・・・・笑わない?」
「どうかな」
「じゃ、言わない」
「言えよ、気になるだろ」
どうしよう
想像していた通りの話し方
少し意地悪そうだけど、本当は優しい・・・・・そんな気がした
「笑わない?」
「ああ」
「本当?」
「しつこい!早く言えって」
「うん・・・・・・僕ね、この似顔絵を見た瞬間恋をしたみたい」
「・・・・・・・・・・・・え?」
「ごめんね、だからと言ってトウヤをどうこうしようなんて考えてないんだ・・・・・・ただ、嬉しくて」
「・・・・・・・・・・・・あそ」
「うん」
本当に会えた事が嬉しいだけ
でも、この観覧車が地上に降りればそれでお別れなんだ
「もうすぐてっぺんだぞ、夕陽見ないの?」
「・・・・・・・・・・・うん」
「何で?」
「本当は綺麗な景色を見ようと思ってトウヤを誘ったんだけど、この景色を見てしまえば辛い思い出になりそうだから」
「辛い?」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・」
黙り込むトウヤを見つめ、このまま観覧車が止まってしまえばいいのにと思ってしまった
「俺さ」
「うん」
「観覧車とか、恋人と乗りたいと思ってたんだけど」
「・・・・・・・・・ごめん」
「ちなみに夢は隣に座って綺麗な夕陽を見るみたいなね」
「本当にごめんね」
もう何も会話が出来ない
会わなければこんなに苦しい思いをしなくても済んだのに
何もわからないまま声をかけた自分を責めるしかなかった
顔を隠すように帽子を深くかぶり直し、膝に乗せた拳を見つめ、ただ俯いていた
「そろそろ下に着くぞ」
「・・・・・・・・・うん」
涙が零れ落ちる前に立ち去ろう
僕の気持ちはこのまま胸の奥に閉じ込めてしまうしかないんだ
観覧車からの景色はトウヤの顔だけしか見ていない
そしてもうすぐ降りなければいけない
「着いたぞ」
「うん」
ゆっくりと立ち上がろうとした時・・・・・・
「おねーさん、もう一周ね」
「えっ?」
「はい、お金」
「どうぞごゆっくり」
「うん」
どう言う事?
どうして・・・・?
意味がわからないままトウヤを見つめた
「あのさ」
「うん」
「隣に座ってもいい?」
「えっ?」
「嫌なのかよ」
「う、ううん・・・・・どうぞ」
「ああ」
どう言う事?
「お前って、図体はでかいくせにどこかほっておけないよな」
「・・・・・・・・・・・えっ?」
「確かにさっき声を掛けられた時は驚いたけどさ」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何?」
「一度しか言わないからな」
「うん」
「・・・・・・・・・・・・俺も一目惚れしたんだよ」
嘘・・・・・
「えっ・・・・・・」
「だから今度は一緒に夕陽を見よう」
神様・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・うんっ!」
「泣くな!」
ありがとうございます・・・・・・・・
「うん・・・・・」
どうしよう
すごく嬉しい
まさかこんな奇跡が起こるなんて
「綺麗だな」
「綺麗」
「と言うか、お前の髪も綺麗だな」
「えっ?」
「まぁ、もっさりしてるけど」
「・・・・・・・・・・・・」
「冗談だよ」
「うん」
そう言って肩を抱きしめてくれたトウヤ
僕はこの景色をずっと忘れない
キラキラした夕陽とオレンジ色に染まった景色をずっと忘れない
「俺の事好き?」
「うん、好きだよ・・・・・トウヤは?」
「さぁね~」
「ひどいよ!」
「大事な事は何度も言わないの」
「・・・・・・・・・・・・もう」
意地悪なトウヤだけど、瞳は笑っていた
それが答えだとすぐに気付いた
「と言うか、似顔絵返せ」
「どうして?」
「恥ずかしいだろ!」
「嫌だよ」
「おい~~!」
「すごくよく描けてるのに」
「だから嫌なんだ」
「どうして?」
「・・・・・・・・・・・・・お前には似顔絵じゃなくていつも俺を見ていて欲しいから」
「トウヤ」
そしてまた紙飛行機を作り、観覧車の窓から二人で飛ばした
夕陽の中に吸い込まれるようにして紙飛行機が遠くへ飛んで行くのを二人で笑いながら見つめていた
ー完ー
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