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純平君
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「あ! ……ひょっと! はなひてっ……ゆうさん、ひたいって!」
俺に頬をつままれた元揮君が情けない声を上げる。
「あはは……ポカンとしてるから。元揮君面白い」
手を放してやると、頬をすりすりしながらふくれっ面をする元揮君。
そんな元揮君から視線を戻し、烏龍茶の彼の方に向き直る。
「俺の事、悠さん……って呼んでくれもいいけどさ、まずは自分、自己紹介じゃないかな? 俺、まだ君の名前も知らないですよ」
最近よく来る、大学生らしきグループの中にいる少し気の弱そうな彼。
お酒もきっと弱いんだろうな。最初の一杯の後、お代わりを頼まれた記憶が俺には無い。
でも今俺の目の前にいるこいつは、そんな印象とは真逆の雰囲気。
積極的だし、明るくて大人びていた。
なんだろう……
この不思議な雰囲気のこいつに興味が湧いてくる。
「俺は純平(じゅんぺい)って言います。渡部純平(わたべ じゅんぺい)。最近よく友達とこの店にきてるけど……わからなかったかな? えっと……元揮さん?」
元揮君は少しだけキョトンとしてから思い出したのか、大きな声をあげた。
「あぁー! あの賑やかなグループの! ……え? なんか雰囲気違くねぇっすか? わかんなかった。てか、学生さん?」
やっとよく来るグループの子だとわかった元揮君が驚いて俺を見た。
「元揮君もわからなかったよね。イメチェン大成功だね。純平君て言うんだ……学生さんですか? それともお勤めしてるのかな?」
純平君ね……
この調子だと、今後も一人ででも来店してくれそうだな。そう思って俺はもう少し距離を縮めるように更に話しかけた。
「あ、学生ですよ。いつも一緒なのは同じ大学の先輩です。先輩達がこのお店の雰囲気が良いって言って一緒に来たんです。そしたら悠さん……が」
「ん?……俺? 」
純平君は何かを言いかけ、すぐに話題を変えてしまった。
「どうですか? 俺……少しは大人っぽくなってます? ……なんかすぐガキ扱いされるのが嫌で、まぁ、でもその通りなんですけどね。だから見た目くらい大人っぽくなりたいなって思って」
はにかんだ笑顔は幼く見え、まだまだ高校生って言ってもおかしくない。よく見るとやっぱり一生懸命背伸びしてる感じに見えた。
「うん、凄くカッコいいと思うよ。でも無理をするのはよくないな。こういうのは経験を積んで変化していくものだからね。そんなに焦る事はないですよ」
俺は思ったままそう言うと、純平君は少しだけ寂しそうな顔をした。
それからまた数日後、純平君が一人で飲みに来た。
「いらっしゃい」
カウンターの端の席に座った純平君の前まで行き、俺は微笑む。
「……こんばんは」
あれ? 元気ない? 今日の純平君は少し元気がないように見えた。
「純平君、今日も一人なんだね……何飲む?」
「あ……えっと烏龍茶を」
「あれ? お酒じゃなくていいのかな?」
この前は雰囲気が違って大人びてたのに、今日はまた元に戻っているようだった。何かあったのかな?
「いや、俺あんまりお酒強くなくて」
「なら、アルコールを控え目にして何かお作りしましょうか?」
俺が言うと「じゃぁお願いします」と、純平君はにっこり笑った。
少しの間俺と他愛ない会話をし、純平君は一人静かに飲んで帰って行った。
この日を境に、純平君はあのグループで来ることもなく、一人で来店することもなくなった。
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