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久々の客
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「最近純平さん、来ないですね」
横で元揮君がグラスを拭きながらボンヤリと言う。
しばらくの間は少し気になっていたけど、俺もいつの間にか気に留めなくなっていた。
そんなある日、久しぶりな客が来店する。
「よお! 久しぶりだな。元気してるか?」
満面の笑みで俺に笑いかけるこいつは陸也(りくや)。
俺の思い人──
とは言っても、もう一年以上も前に思いは散ってる。現在進行形じゃないから、もうどうって事はない。
……大丈夫。
まぁたまに弱ってる時は恋しくなるけどな。
「あれ? 今日は一人なの?」
「一人だよ。なんか言い方冷たくね? 今日は寂しいんだよ。俺の事癒してよ」
こいつはいつもこうやって軽口を叩く。
「なに? 喧嘩でもしたの?……それに酔ってる。どこで飲んで来たんだよ。面倒くせぇの嫌だぞ俺は」
ヘラヘラしてる陸也にそう言うと、ブンブンと首を振り「それは違うぞ」と言って笑った。
「なんかね、撮影が長引いてて今日の予定ドタキャンされたの。でもお仕事頑張ってるからね、俺は文句言わずにこうやって飲んでるんだよ」
はいはい……そうですか。
大抵一人で来て既に少し酔ってる時は喧嘩した時か一人寂しくて惚気に来たかのどっちかだ。
惚気る時……本当に幸せそうな顔するんだよな。
その幸せそうな表情にこっちまで頬が緩む。
「志音(しおん)は偉いね。ちゃんとお仕事と学校、両立してるんだろ? この店にも来る回数減ったもんな」
俺が陸也にそう言うと、嬉しそうな顔をしてウンウンと頷いた。
志音というのが、この陸也の恋人。
陸也が勤めてる男子校の生徒だ。
陸也は男子校の保健医。こいつが白衣着て保健医やってるって聞いた時は、エロすぎてダメだろ? って本気で思ったっけ。
志音は現在高校三年生。
モデルの仕事をこなしながら、ちゃんと学校へ通ってる。
志音が一年の時、この店によく一人で飲みに来ていた。
そう、常連さんだったんだ。
俺は高校生だなんて知らなかったし、大人っぽいから未成年だなんて微塵も思わなかった。
志音もまた、陸也と同じでちょっとばかり心が傷付いてる人間だった。
どんな事を背負ってるのかは詳しくは知らなかったけど、陸也と出会って心を晒す事が出来たおかげで二人は前に進む事が出来たんだよな。
あの奥のテーブルで、陸也が涙を流しながら志音の話を聞いている姿が今でも目に焼き付いている……
運命の出会い──
長く陸也の顔を見てきたけど、志音と出会ってからの陸也は俺の見た事のない表情ばかりしていた。
心から笑って、心から愛して……
幸せをやっと掴んだんだよな。
そんな陸也が、俺は愛おしく思う。
「なに? ここに来る前からどんだけ飲んでんの? 寂しいって言う割に楽しそうじゃん……はいどうぞ」
そう言いながら、俺は陸也にいつものウイスキーの水割りを出した。
陸也はご機嫌で、グラスの中の氷を指でクルクルしている。
「いやさぁ、俺も最近忙しくてさ……悠にも本当に会いたかったんだよ」
「そうかよ。俺もだよ」
俺の事まで気にかけてくれて、ありがとな。
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