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目眩
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俺は普段は昼前まで寝て、午後に買い物や家のことを済ませる。
だいたい夕方の六時頃から店に出るのが常。でもジムに行くときは少し遅れて行くことが多かった。
歳とると太りやすい……というか適度に鍛えておかないとすぐにダラけた体になっちゃうんだ。ジムに顔を出すのは俺の場合は主に体型維持と体力作り、それと気晴らしのため。
今日も溜めてしまった洗濯物をやっつけてから、久々にジムに向かった。
「あれ? 塚原様お久しぶりですね」
馴染みの店員が声をかけてくれる。
「そうだね、先週は体調崩してて来られなかったんだ……」
そんな風に俺が言うと「無理なさらないでくださいね」と心配そうな顔をしてくれる。
「塚原様がいらっしゃらないと俺、寂しいですから」
社交辞令だとしても、俺はこういう言葉を掛けられることがとても嬉しい。
「ありがとう」
受付の男の子と軽く会話を楽しんでから、俺はプールへ向かった。
ウォーミングアップを済ませて、今日は一時間ほど泳ぐ。
泳いでいる時や、マシンで汗を流している間の無心になれる時間が俺は好きだった。
休憩を挟みながら適度に汗を流し、シャワーでさっぱりしてからまた日常に戻る。
……のはずだったんだけど、今日は違っていた。
気がつくと見知らぬベッドの上。
ふらつく頭で記憶を辿った。
一頻り泳いだ後、プールから上がり、ロッカールームへ行ってからシャワーを浴びに……
あ、そうだ。急に目眩がして……もしかして俺倒れた?
「目、覚めましたか? 塚原様」
さっき一緒にお喋りしていた店員が心配そうに俺の顔を覗いた。
「えっと……俺、倒れた?」
恐る恐る聞いてみると、赤い顔をして大きく頷く。
「もう! びっくりしましたよ! 幸いすぐ後ろを歩いていたお客様がいて、支えてくださったみたいで……貧血ですかね? まだ本調子じゃなかったんじゃないですか? はぁ……でもよかった。心配したんですよ」
倒れた俺を支えてくれた?
今日のプールは平日の昼間って事もあって人も疎らで空いてた。
不幸中の幸いだな。
「……悠さん、無理しちゃダメじゃないですか」
不意に後ろから別の声がして驚いた。
振り返ると、怖い顔をした純平君が立っていた。
「え……? 純平君? もしかして君もプールにいたの?」
「あれ? お知り合いだったんですか?」と、店員が驚いている。
キャップかぶってゴーグルしてるんだもん、一緒のプールで泳いでても顔わかんねえよな。
「俺も驚きましたよ。同じタイミングでプール上がって歩いてたら急に前でフラフラし始めるんだもん。間に合ってよかったです。もしかしてこれからお店ですか?」
険しい顔で俺の顔を覗いてくる純平君に、俺は小さく頷いた。
「え? ダメですよ塚原様、ちゃんと病院行ってください!」
「いや、よくあるんだよ。大丈夫……また酷くなるようなら病院行くから。ありがとう」
俺はベッドから立ち上がり、荷物を取りにロッカールームへ戻った。
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