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純平の事情①
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なんだか嘘みたいだ。
悠さんとこうやってニ人でドライブしているなんて──
悠さんはきっと俺が先輩達と店に行ったのが最初の出会いだと思ってる。でも本当は違うんだよね。
俺が最初に悠さんと会ったのは、今から一年くらい前、
……悠さんは覚えてるはずもない。
本当、たまたま行った店が悠さんの店だったんだ。驚いたし、これが運命なのかも、って本気で脳裏をよぎってしまった。
悠さんの顔を見て、一気にあの時の記憶が蘇ったんだ──
俺が高校を卒業して半年くらい経った頃だったかな?
当時付き合ってた子と別れた俺は、友達の家でやけになって絡みまくっていたんだ。でもその友達は明日早いからって理由で家を追い出されて、しょうがないから繁華街を俺はフラフラしていた。
そんな時、見かけたのが悠さんだった……
道の端、植込みのブロックに腰掛けて俯てる人。その指先には今にも燃え尽きそうになってるタバコが挟まっている。華奢な体に明るくて柔らかそうな長めの髪の隙間から見えている白いうなじ……近くに行くまで、俺はその人は女の人だと思っていた。
なんだ男かよ……
俺は何を期待していたのか少しばかりがっかりしながら、なんとなしにその人を見た。
足元にポタポタとひっきりなしに雫が落ちてる。地面に吸い込まれていくそれはきっと涙。
え? 泣いてる?
いつもなら見知らぬ赤の他人なんて気にも留めないのに、どういうわけか俺はその人の前で足を止めてしまった。
目の前に俺が立っていても、その人は気付かずに俯いたまま。相変わらず、地面に吸い込まれていく小さな雫達……
俺は下から覗き込むように、その人の目の前でしゃがみこんだ。
「ねぇ、大丈夫?」
声をかけるとやっと気が付いたのか、ビクッと肩を震わせゆっくりと顔を上げた。
……?!
俺がしゃがんだ場所が、思いの外その人の目の前で結構な至近距離でドキッとした。
目の前の泣きはらしたその瞳に、俺の心臓は騒ついた……
「あ……大丈夫……」
その人は息を吐くように弱々しくそう言うと、俺に向かってにっこりと笑った。
泣いていたくせに……
俺に向かって笑ったその顔が儚すぎて、思わず抱きしめたくなった。
こんな感情、俺は知らない。
焦った俺はとりあえずハンカチを差し出して逃げるようにその場を後にした。
この出来事からしばらくの間、彼の涙の理由とあの時抱いた感情が何なのか……俺は気になって気になってしょうがなかった。
「な? 何でか気になるだろう?」
俺は親友の陽介(ようすけ)の部屋で何度も何度もあの時の話をしていた。
陽介は呆れ顔でそんな俺に溜息を吐く。
「どうせまた惚れちゃったんだろ? ついこないだ里佳さんと別れたばっかなのに……相変わらず気が多いったらないな」
相変わらずってどういう意味だ? 確かに里佳とは別れたばっかだけどさ、そもそもあの人は「男」だし。惚れたもクソもないだろ。
「いや、男だからね。そりゃ女みたいに綺麗だったけどさ」
「男だし……ってお前さ、保健医の高坂にもときめいてた時期があったじゃんか。またそんなノリだろ?……泣いてたのは嫌な事でもあったんだろ。道端で泣いてるなんてよくある事だ。見ず知らずの奴の事気にしてたってしょうがないだろ? もう気にすんな……てか、そんな話をしに毎日俺んちに来んなよ。いい加減それ聞き飽きたからね」
そんな感じで陽介にしょっ中話をしていたけど、そのうちに記憶が薄れて俺の頭の中からその彼の事は消えていった。
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