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掴めない手
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あの時の涙の訳?
なんで今更、そんな事を思い出さなきゃいけないんだ。
純平君に手まで握られて……
なんなんだよ。
……やめてくれ。
手を引っ込めようとしても純平君は全然離してくれない。
意味がわからない。
『──悠さん、いっぱい無理してませんか? 大丈夫ですか?』
「……無理なんかしてない!……離して……手を離せ!」
思わず強張ってしまった俺の声に、純平君が驚いた様子でやっと手を離してくれた。俺は掴まれていた手を摩るように手を握り込み、気持ちを落ち着かせるために軽く深呼吸をする。
心臓がドキドキして苦しい。
……何で泣いてたかって?
あの時、敦に俺の隠していた気持ちを抉り出されて堪えきれずに店から逃げ出したんだ。
惨めで悔しくて……
なんで純平君にこんな事を話さなきゃいけないんだ?
なんで純平君はこんな事を俺に聞くんだ?
「ごめん……ごゆっくり……どうぞ」
俺はこの場に立っていられず、純平君から逃げるように事務所に入った。
ソファに寝そべるように腰掛け、目を腕で覆う。もっと上手く取り繕って純平君と話をするべきだったと後悔した。
しばらくすると誰かが事務所に入ってくる気配がした。徐に温かいタオルが顔に被せられる。
「ん? ……誰? ありがとう」
タオルを顔に押し付けながら、俺は元揮君にお礼を言った。
誰?なんて聞いたけど、こういうことをしてくれるのはきっと元揮君だ。
「まったく、どうしたんですか? 純平さん、えらく落ち込んだ様子で帰って行きましたよ? 悠さんらしくない。大きな声なんて出してたけど……もしかしてケンカ?」
俺は笑いながら首を振る。
「違うよ……ちょっと思い出したくない事を言われてね。つい感情的になっちゃった……お客放ったらかして、俺今日はダメだな」
「………… 」
元揮君が黙ってしまったので、俺は顔の上からタオルを退かし元揮君の方を見る。
そこには真剣な顔をした元揮君が俺の事を見下ろしていた。
「悠さん……優しいんですよ。嫌な事あったら怒るのは当たり前です。不愉快なら不愉快だって顔したっていいんです。声を荒げちゃうほど、嫌だったんでしょう?」
「……ん」
「たまにはいいと思いますよ、そういう悠さんも……店の方は大丈夫なんで、俺らに任せて休んでてください。あ、なんなら帰ってもらってても大丈夫です」
笑顔になった元揮君は、そう言ってまた店の方へと戻っていった。
少しの間、俺はぼんやりとソファに座ったまま考える。
純平君は別に嫌がらせであんな事を言ったわけじゃない……
大の男が道端で泣いてたんだ。そりゃ気になるよな。
きっとこの店に来て、俺と知り合ってからずっと気になってたんだろう。
でも今まで聞かずにいてくれて……
純平君は、俺の事を心配して言ってくれてるんだ。
それなのに……
俺はあんなにイライラして、悪い事をしてしまった。
純平君はあんなに優しいのに。
でも純平君の事を考えれば考える程、やっぱり俺は苦しくなった──
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