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俺とは違う……
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もう少しゆっくりしていたかったけど、太亮君から連絡が入り店に戻る事になってしまった。
「悪い……どうする? 一緒に戻る?」
なんだか静かになってしまった敦に向かって聞いてみると、もう少し飲んでから帰ると言うので、金だけ置いて俺は一人店に戻った。
店に戻ると常連客が三組……
別に太亮君一人で捌けない人数じゃないだろうに、と思ってよく見てみると、なるほど、太亮君の苦手な客が一人来ていた。
「悠さん、呼び出しちゃってすみません……久しぶりでちょっと俺ダメージが……」
そう言って太亮君は苦笑いでカウンターの奥に引っ込んでしまった。
「ふふ、本当久しぶりだ」
思わず笑ってしまいながら、その客のテーブルへと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。随分とお久しぶりですね。今夜もまた一段とお綺麗で…… 」
目の前に座る人目を惹くカップル。
傍から見れば美男美女のカップルでしかないが、実は両方男性。そしてこの綺麗な女性、麗(うらら)さんは太亮君をえらく気に入っている。
「あらぁ! 悠ちゃんお久しぶり! 悠ちゃんこそ相変わらずイケメンでいい男!……あら、今日はいつにも増して元気そうね。いい顔してる」
そう言って麗さんは俺の頬をすっと撫でた。
「あら? ちょっとちょっと、太亮ちゃんは? こっち来なさいって言っておいて!」
「はいはい。あんまりいじめないでくださいね」
俺はカウンターへ戻ると、隅っこの方で意味もなくグラスを拭いてる太亮君の肩を叩いた。
「麗さんが呼んでたよ。お相手してあげなきゃ」
「今日はお連れ様がいるから大丈夫ですよ……あの人、久しぶりに来店したと思ったらいきなり抱きついてきてキスしてくんだもん。勘弁してくれよ……」
太亮君は初めて麗さんを見た時に女性と勘違いしていた。
モデルみたいに背が高くてとても美人、派手な容姿、おまけにスキンシップ過多。初めて会った時から気に入られてベタベタされて満更でもなさそうだったのに……麗さんが男とわかった途端これ。
「でも、嫌いじゃないんでしょ? どうして避けるの? 麗さん、漢気あって良い人だよ。それにとてもチャーミングだ」
「………… 」
太亮君は赤い顔をして黙ってしまった。
「……ま、無理ない程度に相手してあげてね。ほら、オーダー取りに行くくらいは出来るでしょ?」
俺はそう言って太亮君の尻を叩く。渋々と麗さんのテーブルに行った太亮君は案の定、麗さんに捕まりしばらく戻ってこなかった。
しばらくしてから忘れた頃に太亮君がカウンターへと戻ってきた。
わかりやすいくらい憔悴してる。
ほんと笑っちゃう。
「太亮君大丈夫? 今日は久々だったから長かったね」
そう言うと、太亮君は深い溜息を吐いた。
「悠さん、この店お触り禁止にしてください。俺もうどうしていいのか」
お触り禁止って……
「女の子のお店じゃあるまいし。お触り禁止って言っても麗さんは聞かないよ? 俺から見てもそんな酷くはないと思うけど。そんなにしんどい?」
太亮君は膨れっ面をして俺を見る。
「……だって……だって、あんな風にされたらさ、好きになっちゃいそうなんだもん。あの人男ですよ? ダメでしょ…… 」
……驚いた。
てっきり苦手なのかと思ってたら、そういう理由だったのか。
「麗さん、誰にでもあんなんだし、俺の事だって……揶揄ってるだけなのに、俺が本気になっちゃったら……迷惑でしょ? そもそも男だしさ」
そうか……「男同士」だって事でこんなに抵抗があるんだな。太亮君は男を好きになってしまう事が怖いんだ。まあ異性愛者からしたらそうなるのは当たり前か……
「じゃ、麗さんには俺からお手柔らかにしてもらうように頼んどくね」
そう言って太亮君の肩をぽんぽん叩くと、恥ずかしそうに首を竦める。
「……いや、マジで。こんな事言うつもりじゃなかったんだけど……超恥ずかしい。悠さん誰にも言わないでくださいよ。頼みますっ」
「あ、ほら……麗さん呼んでるよ? あとはお願いね」
太亮君を麗さんのテーブルへ向かわせ、俺は少し純平君の事を考えた。
純平君だって本当は太亮君と同じ。
俺とは違う。
それでも俺の事を好きだと言った。断言してくれた。
それは一時の気の迷いかもしれない。思いがけない感情に戸惑いながらも俺にそう言ってくれた純平君に、俺もちゃんと向き合わなくちゃ失礼だって、改めてそう思った。
俺と純平君は違うんだよ。
それを思ったら胸の奥がキュッとした。
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