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本当のところは……
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そんな嬉しいことがあってから、また俺は海外の仕事で一ヶ月近く悠さんの店に行けなかった。
いつもタイミングが悪いってつくづく思う──
仕事中、悠さんのあの笑顔ばかりが頭を過ぎり、カメラマンに「今日は表情がいいな」と何度も褒められる始末……俺、にやけてるだけじゃねえの? 大丈夫かな。
でも、日本に戻ったらすぐに店に行こうと思ってたくせに、いざ行こうとなると恥ずかしいというか気まずいというか……なかなか行くことができないでいた。
それでもやっぱりどうしているか気になるから、早目に仕事が終わったこの日に意を決して悠さんの店に向かった。
「久しぶり〜! 悠さん元気してた?」
できるだけ自然に、俺はいつものカウンターの席に座る。
「………… 」
少しの沈黙。
思いがけない悠さんからの熱い視線にどうしようもなくドギマギしてしまった。
「ほんと、敦は神出鬼没だな……久しぶりだね。仕事忙しかったの?」
「うん……忙しかったっていうか、日本に居なかったんだよ……悠さん、俺いなくて寂しかった?」
悠さんに会えて嬉しく思うこの気持ちを誤魔化すために、ちょっと冗談っぽくそう聞いてみると、悠さんは俺を見つめて柔らかく笑い「うん」と頷く。
「は?……何その返事? やめて、ここは “そんなことねーよ” って鼻で笑うところじゃねえの?」
こないだから、悠さんがやたらと素直で調子が狂う……
照れてしまってダメだ。
顔がまともに見られない。
しばらくの間、俺の反応が楽しかったのか、可愛く笑う悠さんに揶揄われた。
「……敦」
おもむろに呼び止められ、顔を上げる。
「ん?」
「ありがとうな」
だから!
なんなんだよ。そんな顔して見んじゃねえよ。俺はボッと顔が熱くなるのがわかり、慌てて顔を背けた。
「なに? 今度は何のありがとうなの? やめろよ、もうこないだちゃんとお礼言われたよ?……違うの?」
悠さんは更に俺を見て笑う。
俺が照れたり困ったりしてるのがわかってて面白がってる。
でも、そんな俺に悠さんは言った。
俺のおかげで吹っ切れたって……長年の片想いの相手とも素直に話せた、純平君とも話ができたって。
あ……
純平君と話したってことは…
あぁ……
付き合う事になったのかな。
悠さん、純平君に惹かれてたみたいだし、純平君も悠さんのこと……好きなんだよな。
でも……
純平君はノンケだよ? 心配じゃねえの?
やっぱりいつかは女のところに……なんて常に思ってしまうような恋愛でいいのかよ。
悠さんはさ、ずっと思いを押し殺して誰にも言えずに今まで来たんだ。
もう不安な思いをさせたくない。
相手に気を使って自分の思いを押し殺すような事はもうさせたくない。
俺なら……
俺なら絶対に不安になんかさせない。
これでもかってくらい愛情を注いでやれるのに。
そんな事を思いながら、恐る恐る純平君と付き合うのかと聞いてみた。
「ん……フラれたよ」
悠さんの答えは思いもよらないものだった。
「は? フラれた? ……フったの間違いじゃねえの?」
「いいんだ、フラれたの俺は。純平君には里佳さんがいる。少しでも彼女とやり直す可能性があるならそっちの方がいいんだよ」
「………… 」
そういう事かよ。
どこまで優しいんだこの人は。
でも、純平君の事を思って自分がフラれるように仕掛けて身を引いて……
悠さんはそれでいいのかな?
辛い恋をするのが嫌で、逃げたのかな?
色々と思いを巡らせてみたものの、清々しくも見える悠さんの表情からは本心を窺い知ることはできなかった。
「そうなんだ。悠さんが納得してるんなら、まあいいんじゃね?……はい、乾杯」
俺は悠さんに向かってグラスを傾ける。
悠さんは笑顔でそれに答えて、カチンとグラスを重ねた。
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