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涙の理由
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「悠さん、おかわりください」
純平君が珍しくおかわりを注文する。
「大丈夫なの? それお酒だよね?」
あまり酒を飲まない純平君は、いつもなら一杯目を飲んだ後は烏龍茶なのに……
「はい。今日はちょっと……」
今日はちょっと……という言い方が気になったけど、元揮君に一杯目の確認をしてジンフィズのおかわりを作る。言われるままにもう一杯を純平君の前にすっと出した。
心なしか既に少し顔が赤らんでいる純平君を見て、もしかしたら先程の敦の態度が不快だったのかと心配になった。
「もしかして敦の態度が不愉快だった? ごめんね。デリカシー無い奴で……」
不安に思い聞いてみるが、純平君は笑いながら首を横に降る。
「別に何とも思ってないですよ? 悠さん気にしすぎです……気遣ってくれるのはすごく嬉しいけど……」
沈黙……
そのまま言葉が続くのかと思い、俺は純平君の言葉を待った。
元揮君はカウンターから離れ、テーブルに新たに来店した常連とお喋りをしている。待ってみても特に何も話し出さないから、俺は何か会話のきっかけになるような事を探した。
敦のせいでいつもの調子が出ない。客を前にして、こんなに気不味く沈黙したのは初めてだった。
俺が話し出す前に、純平君が沈黙を破り静かに口を開いた。
「悠さん……ちょっと聞いてもいいですか?」
潤んだ瞳を俺に向け、遠慮がちに純平君が言う。少し緊張しているようにも見え、俺までドキッとしてしまった。
「……前に、えっとかなり前なんですけど、悠さん……なんで泣いてたんですか? 俺ずっと気になってて、あ、いやすみません。おかしいですよね…… でも悠さん泣いてるくせにあんな笑顔なんて見せるから……なんか凄え気になっちゃって」
「……?」
泣いてた? 俺が?
俺は人前では泣かない………
俺が何も言えずにいると純平君は諦めたように「ははっ」と笑う。
「そんなの覚えてないですよね。もう一年も前の話ですもん。この店出て、駅の方へ向かう途中の植え込みの所……悠さんが座り込んで泣いてたから、俺ハンカチ貸したんだ……」
あ……
あの時の!
「あれ純平君だったんだ。思い出したよ、ハンカチ、あるから……ちょっと待ってて…… 」
俺は純平君を残し、慌てて事務所へと向かう。
デスクの引き出しに、あの時しまったハンカチを探した。
「ありがとうね。これ……ちゃんと洗濯してあるから」
純平君にお礼を言いハンカチを返す。
「……恥ずかしい所、見られちゃってたんだね。ははっ……参ったな。え? もしかしてそれでこの店に?」
まさか俺のことを探してこの店に辿り着いたんじゃないだろうな。
「いや、たまたま入った店に悠さんがいたから。思い出したんです……でも凄く気になってました」
カウンターの上にハンカチを置いた純平君に、突然手を握られる。
「俺の友達はさ、よくあることだ……なんて言ってたけど、男が涙を流すのってよっぽどの事だと思うから。あの時の悠さん、凄い辛そうにぼろぼろ涙を落としてたくせに、見ず知らずの俺に向かって笑顔を見せたんですよ?……きっと辛いのに、赤の他人になんであんな風に笑えるのかなって……悠さん、いっぱい無理してませんか? 大丈夫ですか?」
「………… 」
優しい眼差しで俺を見る純平君。じっと見つめられれば見つめられる程、俺の心は騒ついて辛くなった。
お願いだから……
そんなに俺に踏み込んでこないでくれ……
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