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泣かせたい
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志音と彼氏はすぐに店から出て行った。
そのニ人の後ろ姿を、また複雑な表情で見つめる悠さんの姿……俺はそんな悠さんを見つめていた。
「なぁ…… 今のってさ、いつも来てる人……だよな? 顔見てて思い出したんだけど、あれ志音の学校の先生じゃねえの? あの時もあの人と悠さん一緒にいたよな?」
目が合った悠さんに、俺は聞く。
俺が志音にキスした日の事……苦い思い出のあの日のことを思い返す。悠さんは軽く溜め息を吐き「そうだ」と言った。あの彼氏は志音の学校の保健医だと、悲しい目をして教えてくれた。
悠さん、何でもない風を装ってる。
あいつは高校時代からの昔馴染みだって……
どれだけこの人は自分の気持ちを押し殺してきたんだろう。
失恋して、ちゃんと吹っ切れて前に進めてるんだろうか?
いや、進めていない。あの顔見れば一目瞭然だった。
悠さんは自分を表に出さない。
きっと自分が同性しか愛せないと気がついてから、ずっと感情を押し殺してきたのだろう……
見ていてわかる。
俺と同じだから……容易に想像できてしまうのが辛かった。
不器用で自分を殺すことしかできない悠さんを見ていて、俺はどうしようもなく悠さんを泣かせたいと思ってしまった。
「なんだよ。なに?」
不安そうな顔で俺を見る。
「悠さんさ、あんた滑稽だな」
「……は?」
悠さんの瞳が揺らぐ。これから俺が言うことはきっと一番言われたくない事だ。
「いい人ぶってんの疲れるだろ?」
ほら………
いいんだよ、泣いても。
もう泣けなくなってんだろ? 思いっきり泣いちゃえよ……
絶対その方が後々楽になるんだから。
「あの先生の事、いつから好きなんだ?」
「……だから! 好きとかじゃなくて、昔馴染みなだけだって」
初めて見る悠さんの顔。
出来んじゃん。そうだよもっと怒れ!
「悠さんはさ、どんだけ時間を無駄にしたの?」
俺がそう言った途端、キッと睨んで悠さんは元揮君に店を任せて奥へと行ってしまった。
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