アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
安全地帯
-
いつも通り登校した俺は、本来行くべきである本校舎3階の教室には目もくれず近年増築された別棟へ向かう。
だって本校舎はファービーちゃんのアジトだからね。
この別棟は比較的安全地帯、所謂教師たちの隠れ家。本校舎にあった職員室は5年前にマックスによって乗っ取られたそうで。
それに別棟は本校舎に比べてずっと綺麗だし、まだ勉強する気のある不良や俺みたいな理不尽な理由で入った真面目な生徒が授業を受ける場所になっている。先生たちも随分健気で苦労話を聞いていたら泣けてくる。
授業をやっている教室へは向かわず、迷わずに第二保健室へと向かった。本校舎にある保健室は5年前に以下略。
ここの保健室は俺の一番気に入ってる場所だったりする。別に授業をサボるわけじゃない…ここで個人授業をするのだ。
なぜかといえば、俺が上の教室へ入るとただでさえ不良共に心労してる真面目クン達が俺を見て恐怖に震るえ授業にならないからだ。
俺の一挙一動に気が散るらしく…こちらもこんなナリしてる事に申し訳なくなるが生まれつきこの顔なんで仕方ないんです。大きく育っちまって仕方ないんです。
見かねた先生達が好きな場所で授業をしてやると言ってくれたので、俺は迷わずここを選んだ。この保健室の主である養護教諭は快くOKしてくれたのでありがたい。
「おっす」
「おはよーん」
保健室の扉を開いて中にいる柏木せんせーに声をかける。回転椅子をこちらに向けた柏木は片手を挙げて挨拶をしてくれた。この男の右目にはいつも白い眼帯が付けてあり、なんでも5年前の乗っ取り事件で不良達に適わず負傷してしまったらしい。
右目はもう二度と光を見ることはないと聞いた時には胸が痛んだ。なんてひでえ話だと。初めてここへ来た時には養護教諭が女じゃないと聞いて正直、げんなりしたが考えてみればこんな危険な場所に女性職員が来れるはずがないのだ。
柏木は若いだけあってか、話は合うし面白いし気さくで頼もしい。時たま怪しい手つきでスキンシップをしてくる以外を除けば好きなタイプだ。こいつも、俺くらいの不良なら可愛いもんだと言ってくれる。
柏木は自身の色あせた茶色い髪を軽く掻いてから目を細めて笑った。
「今日は早いなあ?」
「…まあな」
遠慮なく中に入って、長机の傍に寄ると鞄を足元に置いた。今日は数学らしいけど担当の泰華(たいか)はまだ来ていない。近くにあったパイプ椅子に座ったら、柏木がキィと回転椅子をこちらに近付けてきた。
「なぁ知ってる?最近…御法の噂たってるんやってさぁ」
「噂?」
「ほら、御法はどこのチームにも入ってへんやろ?」
関西訛りを隠そうともせず、どこか面白そうに話す柏木の目は笑ってない。噂って、一体なんだ…?俺は漸く平穏なまま2年生を迎えたばかりだぞ…まだ4月も終わってねえのに。
「近々…御法の取りあい戦争がおこるみたいやでー」
「はァ?!何も聞いてねえぞッ?!」
話が突飛すぎやしねえか…思わず苦笑する。
「俺も昨日聞いたばっかりやってー…本当は入学当初から各グループが狙ってたらしいねんけど。御法の外見に恐れて渋ってたみたいやなあ…一年間御法を見張ってて、ようやくお前の事を掴めてきたらしい不良共が2年になったこの機会に…」
「マジかよ…俺の平穏ライフは一体どうなるんだ…」
「まー、御法がどっかのグループに妥協して入ったら話は丸く収まりそうやけど…」
「妥協つっても…一番マシなのはファービーちゃんかなァ…ダンディーは死んでも却下」
「言うと思った」
「できることなら何処にも属したくないって…」
「うん、気持ちはよー分かる」
うっせえ、棒読みじゃねーか。
内心で突っ込んだらその時丁度扉が開いて数学教師、泰華が入ってきた。
「おはよ-」
「はよーございます」
「泰華先生ー聞いた?御法の噂」
「おうよー、職員室でも話題なってたぞー」
ニコニコと笑いながら泰華は自身の白い顎髭を撫でる。その仕草は長年の癖らしい。ちょっと可愛いなって思う。泰華先生はもうすぐ定年退職前。長年この学校と近隣の高校を行き来してたらしく…よくこの高校で身が持ったな。すげえ人だ。
「嫌っス、俺一匹狼でいたい。一匹狼のプライドが」
「「気持ちはよー分かる」」
「嘘つけっ!」
泰華は長机の上に教科書を置くと俺の向かいに座る。そして肘をつき身を乗り出して俺と柏木に向かって声を落として語り始める。
「あのなぁ…さっき校長先生達が話してたんだがな?今回の御法取りあい合戦を上手く利用できないかって言ってた」
「利用?」
「そうだ…不良達は今まで御法を怖がって勧誘を渋ってたんだ。って事は今でも御法を怖がっている奴がいるわけだ。そこを手にとる。つまり、御法を食いに来る奴らを、御法が食ってやればいい」
したり顔で笑む泰華に、俺はいまいち話が分からない。しかし柏木はすぐさま納得したように「ああ!」と手と叩いた。
「なるほど、その手があったんやなぁ」
「え?え?どーいうこと?」
戸惑う俺に、泰華が顎髭を撫でながら分かりやすく説明をしてくれた。
「だから、御法を勧誘してくるやつらを手懐けちまえばいいのさ。例えばマックスに勧誘されたとする。お前は『俺に勝ったらマックスに入ってやる』と奴らに言えばいい。そして御法が勝つ。負けたマックスを問答無用で従えちまえば、マックス領にある職員室が取り戻せるという事だ」
「んなッ!?勝手すぎんだろ!!!第一、一人でマックスに勝てるほど強くねーよ」
「そこは大丈夫だ」
「何で!何の根拠がッ…」
「お前の傍には俺達教師陣がついてる。今まで力の差で負けてきたが…頭の差であいつらに負けるはずないだろ?今まで事を起こせなかったのは、生徒側の味方が居なかっただけなんだ」
そりゃそうだ…相手はまだ20にもなってないガキ共で…一方こちらはこの不良高校の教師として堪え抜いてきた強者共ばかり、そして腐っても教師…腐っても。俺もあの不良共と連むぐらいなら先生達といたほうがマシだと思ってる。
「で…も…」
「頭脳戦略、ここを使ってやるのさ」
泰華は人差し指で俺のこめかみをやさしく叩いた。残念だが、そこは空っぽです。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 19