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集中攻撃
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タイミングを合わせるように教室の天井に設置された火災スプリンクラーが遠隔操作で散水を始めた。瞬く間にびしょ濡れになる。
混乱する不良達を前に俺はその様子を見ながらふ、ふ、ふ…と変態にも近い笑みを漏らしていた。
物質が着弾した衝撃で袋が破け中身が床にこぼれ出る。それはドライアイスで、既に濡れた床と化学反応を起こし白い煙を上げ始める。この煙は水蒸気が冷やされて固まったものらしい。科学のせんせーが教えてくれました。
室内は一気にもやもやとした煙に包まれ、足元は滞留した白煙のせいで何も見えない。まるでアイドル用のステージみてぇだ。
一歩踏み出せば大量に転がるドライアイスがつま先に当たる。不良達は「寒ッ!」「冷たッ」「いてッ」と狭い室内から我先に逃げようと揉みくちゃになっていく。
冷たいのは当たり前だろ、ドライアイスなんだから。-50℃以下らしいから直接触ったら凍傷モン。
「てめェ!何しやがった!」
「アァ?俺なわけねーだろ、どうやって投げ込むんだよ」
慌てふためいて顔を真っ青にした金髪に俺は冷静に回答してやった。その様子に納得したらしく、改めて俺よりも知能が足りねーんだなと憐れんでしまう。
「おい、これ有毒かもしんねーぞ、あんま吸いこんだら死、ぬ、か、も」
室内に叫んでやったら一同はハッと口元を押さえた。確かに二酸化炭素の塊であるドライアイスが出すこの煙は体にはあまり宜しくない。換気はできているので窒息死、中毒死する危険性は無いそうだ。が…可哀そうに、これからもっと酷い目にあってもらうんだわ。
目の前で呼吸を止めて苦しそうな不良を手当たり次第引っ掴むと背負い投げしてドライアイスの転がる床へ叩きつけてやる。いきなり暴れ出した俺に不良共は慌てて反抗しようとするが呼吸を止めているため苦しそうだ。
俺は半笑いで向かってくる敵をバタバタと床へなぎ倒す。倒れた男たちは足元に滞留する煙のせいで突然姿が消えたように見えるから面白ぇ。5、6人叩きつけた所でミシッと教室全体が悲鳴を上げた。そろそろか…と俺はさり気なく足元に置いてあった消火器へ手を伸ばす。
昨日説明された通り構えて、迷いなく安全ピンを外す。ホースの先を戸惑う不良達へ向け、そして、レバーを握る。
ブワッシャァァとドライアイスよりも強烈な量の薄ピンクの煙と泡がホースの先から飛び出してきた。
説明しよう、これは校長先生からちゃんと許可を得た行動だ。「使用期限が切れる間近の消火器使っちゃっていいから」と教師らしからぬ発言を戴いたんだが、この際不良達に灸を据える為なら手段を選ばないらしい。だがしかし
※良い子は絶対に真似しないでください※
むわむわする薬剤を遠慮なしにぶっかけると、ギャァァと断末魔を上げながら、マックスメンバーは俺から逃げるように後ろへ後ろへ後退していく。もとから密集してるくせに室内は混み合っているので人口密度はすごいことになっている。「オラオラオラァァ」といいながら中身を最後までぶっかけて歩く俺は立派な悪役だァ。
我ながら笑えるぜと呟いた今の顔は、もう既に残酷な満面の笑みを浮かべている。部屋の半分よりも狭いスペースにドライアイスの煙と消火器の薬剤に覆われ二酸化炭素まみれになった不良共は恐怖と冷たくなった気温にガタガタと身を震わせながら俺に怯えている。
不良達もそうだが、急な室内の環境変化で変わったのはこいつらだけじゃねぇ…。
俺は空になった消化器を力任せに床に叩きつけた。
赤いボディが転がって誰かの足に当たった時、不吉な音が室内に反響し始める。ミシッ、ミシミシミシと何かが軋むような音。「何の音だ?」と口々に怯える不良達の前で俺は堂々と彼らに合掌した。
「ご愁傷様です…」
「なッ!」
丁度最前列にいた、俺を勧誘しに来たあの赤髪の男が此方に一歩踏み出したその時だった。ガキッ、バキッと鈍い何かの折れる音が響く。
そして亀裂音がゴゴゴゴゴと段々と大きくなったかと思うと次の瞬間マックス・マキシマムのメンバーは一斉に下へ落ちた。
映画館の良質なスピーカーで聞くよりも何倍も、物凄い轟音と共に、全員落下した。バラエティ番組で見るような「ワーッ」と叫び声が聞こえて瞬く間に小さくなるそんな光景に俺は変な声を出して顔面が引きつる。
目の前にはドライアイスの煙と大量の砂埃と、教室の半分の床がなくなって出来た大きな穴。
…あれ?確かに床が抜けて不良達が何人か落ちるかもとは聞いていたが、全員落ちちゃったぞ…。全員下へ逝っちゃいましたけど…。
恐る恐る、砂埃を吸い込まないために口元を押さえて慎重に穴を覗いてみたら一階の教室へ落下した不良共が土煙の中ピクピクと手足を痙攣させて瓦礫と共に埋まっていた。
俺は無言で頷き、もう一度手を合わせてからゆっくりと教室の外へ出る。廊下に逃れていた数人の残党が俺を見るなりヒィィと喉を詰まらせてこれでもかと壁に張り付いて恐怖に震えていた。
作戦A(防火災パニック作戦)、見事クリアっス…。
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