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この後何をするか掃除を終わらせてからみんなで決めるか、と自己完結して悠々とサボる嬉野の背を押した。
「おら、テメーも掃除してこい」
「ええっ」
「ええじゃねーよ箒探して廊下掃け」
「ええっ、俺バットより重いモン持った事ないっスよ」
「バット持てたら充分だコルァ」
箒のが軽いじゃねーかと渋る嬉野のケツを蹴って促す。痛い痛いと逃げながらも喜んでるように見えるのは気のせいか?
気怠げに探しに行った背中を見送り再び箒を握ったら、嬉野が消えた方と反対側の廊下から足音が聞こえた。
それも一人では無い、複数。嫌な予感がして警戒すると誰かがとりまきをつれてこっちへ向かってきていた。暗い廊下のせいで顔が良く見えない。
距離が縮まった所で一人ひとり確かめるように視界に入れていく。中央にいる男は俺よりも5センチぐらい低いだろうか。
まるでカフェオレみたいな色をした短髪に長い前髪を左に分け、右耳の後ろにはショッキングピンクのメッシュがある。
そして何よりも目立つのは女子を一瞬で唸らせそうなイケメンフェイス。はちみつ色の少し眠たげな甘い瞳に程良く整った高すぎない鼻。少し厚めの下唇は緩く弧を描いて笑みを携えている。
シャープな顎に右手を添えると俺に向かって何を言い出すかと思いきや、独り言のように呟きだした。
「ンー、思ったよりも大っきい。でもスタイルはいいなァ…脚も長いし目つきは悪いけど鼻は高いし唇も薄い。顔もそこそこ良し…ンー結構タイプ」
「はィィ?」
「おォ、すげぇ八重歯、カワイー」
聞き取れない音量ではなかったが相手の言葉が理解できずに聞き返してしまった。下手すれば今のはセクハラか変態発言にも取れるぞ。
何故に訳のわからないイケメンに品定めされにゃならんのだ、と思った辺りで思考がストップする。訳のわからない…?いや、違う、俺はこのカフェオレ野郎をどこかで見た事がある。
確か先生達に校内の主要人物の名前と顔を叩きこまれた時だ。そうだ…思い出した…。コイツはファイアービートの…幹部ナンバー2…。
「テメェは…七山、彗…?」
「お、意外。俺の事知ってたんだなー」
ちょっと驚いて目を丸くした七山は顎から手を外し二ヤリと笑った。カフェオレの正体が明らかになった途端俺の全身から冷や汗という冷や汗が流れ始める。
まさか、ファービーが向こうからやってきがった…。
しかも下っ端では無く上下関係の厳しいファイアービートの幹部、同い年とはいえトップのその次の位をもつ男を送り出してきたのだ。
マックスの野郎共とは比べ物にはならない程強くずる賢くて危険だと先生が言ってた。もしかしなくてもまずい状況か?ナンバー2をつれてこの少人数でマックスの襲撃に来たつもりか?狼狽する俺に七山は笑みを崩さないままゆったりと言葉を紡ぐ。
「だったら自己紹介する手間は省けたなー、結論から言うけど…御法、ウチにおいで」
「…あ?」
そんな俺の家に遊びに来いよと同じノリで言われた内容についていけなくて唖然と固まった。ウチにおいでって、そんな。
答える前に俺と七山達のやり取りを聞き付けたマックスメンバーが元職員室の中から野次馬の様に顔を出す。そして口々に「こっから失せろォ!」とかなんとかブーイングを始めた。
「アンだてめぇら、ウチの総長に何の用だコラァ」
ハッキリと後ろから聞こえた声は穂先がボロボロになった箒を持った嬉野だった。敵意を向きだした後輩が俺の隣に並んで唸る。騒がしくなった辺りに一括を入れたのは七山の右隣にいた男。
「っせぇぞ雑魚共がァ!!今は七山さんとこいつが話してんだ黙ってろオラァッ!!」
雑魚と言われて更に騒がしくなるかと思いきや辺りは急に静かになった。嬉野の方を見たらぎゅっと口を噤んで言い返す言葉を練っているみたいだ。オイオイ、おめーら自分が雑魚ってこと認めちゃってるよ…そこは言い返せよ…まあ七山の強さを知らねえ奴はいねえからビビるのは当たり前か…。
俺は呼吸を整えると、戦闘態勢を取って硬直する嬉野の頭の上にぽんと手を置くとそのまま後ろへ「さがってろ」と押し返す。言われた通り大人しく言うことを聞いた様子が不覚にも犬みたいで可愛いなと思ってしまったがコイツは男だった。
「ウチに来いって、俺がファービーに入れっつーことか?」
「うん」
あっさりと頷いた七山は当たり前だろ?という表情をしているが一体何が当たり前か分からん。第一、今は俺の独断で物事を進められない。先生達のシナリオを壊してはいけねえからだ。
「断る。俺はマックスの総長だ」
「だからマックスごと引き連れてファービーに入れってこと。ウチの総長がご所望なのよ。下っ端じゃなくて幹部につけるからってさ」
「…尚更断る」
俺の否定にそうだそうだ!帰れ帰れ!とメンバーから野次が付く。ほんっと単純だなお前ら。
「どうしても?」
「何を言おうとファービーには入らねえ。第一、俺は自分より弱ぇ奴の下にはつかねぇ主義だ」
ほぉ、と感嘆した様子の七山は一瞬辺りをぐるりと見渡してからもう一度俺の方を向いて強請る様に声を和らげる。
「じゃあせめて総長と一目だけでも会ってくれよ。俺も総長もアンタに興味津々だからさァ」
「あぁ?誰が行くか。俺に会いたかったらテメェから来いって伝えろ」
あ、今のちょっと言い過ぎたかも。マジでファービーの総長が来たらどうしようかと思ったが七山は対して気にもしない様子でくくくと笑った。
「手ぶらで帰ったらシメられるの俺なんだから勘弁してよー」
「シメられたらいいじゃねぇか。とっとと帰れ」
しっしっと手先で払いのける仕草をしたら怒ったのは七山じゃなくてさっき周りを一括した取り巻きだった。
「ッテメェ!七山さんになんだその態度ォナメてんのかコルァァ」
「かーとーうー」
「ッ七山さん…ッ」
憤る男をやんわりを名前を呼んでなだめる七山は少しだけ歯ぐきを見せて俺を見ながらさっきより幾段も怪しい笑みを浮かべた。
「いーから、黙ってろ」
でも気に食わないと苛立つ男を七山は肘で払う。その所作にようやく男が黙ると今度は俺に向かって一歩踏み出してきやがった。
「どうしても来ないってんなら、無理やり引っ張ってくけど?」
来たか実力行使。
警戒して持っていた箒をとりあえず後ろにいた嬉野に手渡したら、不安そうだがどこか期待してるような瞳で見上げられたので「多分大丈夫」だと呟き返しておいた。もう一度前を見ればとりまきは既に2メートル程後ろに後退していた。
あー…何が大丈夫なんだか。
割れたガラスが全部取り除かれた扉や窓からマックスメンバーが押し合いへしあいとしながら俺達二人を前に「やっちまえー!」「総長ー!」と声援を飛ばし始める。もしここで七山にやられて連れて行かれたら俺の校内統一という野望は台無しになってしまうとみていいだろう…。
七山は更にもう一歩踏み出して胸の前で手首を軽く振ってから指の関節を小さく鳴らした。その動作が何を物語りに来るのか…身構えて息を詰める。しかし、こいつは手を胸の前に留めたまま言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「なーんて、総長はキズもの嫌いだからお前に手は出せないんだよなぁ」
「…はぁ?俺が負けるっていいたいのか?」
嘲笑うように返したら顔が引きつった。
「少なくともお互い痛い目に見ると思うけど」
七山はくるりと向きを変え、横を向いた。その前方には職員室から俺達を見るマックスのメンバー。
「だからちょっと荒っぽいけど、お前じゃなくてこっち使って脅させて貰うわ」
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