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脅迫連行
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嘘だろ、と呼びとめる前に七山は職員室の中に風のように突っ込んでいった。まさか自分達に襲いかかって来るとは思わなかったメンバーはわっと叫び声を上げ散り散りに逃げ出していくが、逃げ遅れた男たちは目にもとまらぬ速さで手当たり次第ファービーNO2の男にブッ飛ばされていく。
勇敢に立ち向かう奴もいるが、実力差は目に見えていた。七山は俺がYESと言うまで順番にメンバーをぶっ潰していくらしい。
返事をしなければこの先真っ暗。この野郎、見た目に反して汚ねぇ野郎だ。
「ッ待て!!オイやめろッ!!!!」
駆け寄って今にも殴りかかろうとしている七山の手を掴んで力任せに捻り上げた。
ピタリと動きを止めた七山はじろりと視線だけを俺に向けると腹立つくらい良い顔で笑む。嘘だろ、痛くねえのかよ。
気持ち悪ィと内心嘆いていたら殴られそうになっていた男がこの隙にヒィと情けない悲鳴を上げ逃げていく。
「だったら、俺と一緒に来てくれる?」
その質問に喉が詰まる。ついて行くのも嫌だがこいつ等を潰されんのも困る。そんなの選べねえだろ。だから精一杯の虚勢を張って七山の腕を逃がすまいと強く握った。
「俺が掴んでる限りオメーはこいつらを殴れねェよ」
「ほー……かっけぇ」
ヒュッと小さく唇を吹かれ、なめられてると分かり頭にきた。直後、七山の顔が近付いてくる。耳の横に生温かい吐息が触れ、周りが驚く中こっそりと耳打ちしてきた。
「アンタと先公達の関係、バラしてやろうか?」
囁かれた言葉に一瞬で全身が冷えた。やっとのことで視線を動かして隣に居る男を睨む。
俺と先生達との関係、それはやましいものではないがマックスメンバーにとっては違うだろう。教師と手を組んで制圧したと聞けばこいつ等にとって気分がいいもんじゃねえ…いや、それどころか…。
固まった俺に周りが恐る恐る「総長…?」と尋ねてくるが苦虫を5匹ぐらい噛み潰したような顔しかできない。もう一度、目の前で笑う悪魔の顔を見直した。
「何で…」
「ウチの総長が知らないはずねぇだろ?俺を喋らせないように今度は口でも塞ぐか?」
ただでさえ七山に勝てるかどうかさえ分からないのに真実を喋らせないなんて完全に不利だ。下手にこいつを殴っちまったら最後、どうなるか分からねえ。総長も恐ろしいが七山も恐ろしい…。計画は、既にバレちまっていた。
「っチ、行けばいーんだろ、行けばよォ…」
畜生…どっちにも分が悪いんだったら大人しくついて行った方がましだ。いざとなったら逃げればいい。悔しさから最大音量の舌打ちをして七山の腕を渋々離す。
俺の選択に満足そうに頷いた悪魔は「おいで」と扉へ向いた。嫌々そのあとに続いたら、後ろから嬉野が呼びとめた。
「総長!」
なんとも切ない表情で腕を引かれる。こいつ等には俺がついて行く理由を知らないから気になるのは当たり前だ。
「何でいくんスか、」
話せるわけ…ねえよな。どう言い訳すりゃあいいんだろうか。上手い言葉が出てこねえ。
「こうするしかねぇんだ…ちょっと付き合ってくるだけだから」
「何…」
納得いかない様子のメンバーをみて、好きで総長になったわけじゃねぇけど…心の中で詫びた。
「くそっ、」
と悪態をついた嬉野がいきなり走り出したかと思うと次の瞬間、部屋を出ようとしていた七山めがけてあろうことか殴りかかった。
「なめやがってッ!」
止める暇もなく、攻撃する嬉野に気付いた七山は顔から笑みを消すと振り返りざまに拳を躱し、嬉野の体を蹴り飛ばした。
ヒットした衝撃によろめき後ろへ倒れかかる体を慌てて抱きとめる。腕の中のやんちゃな後輩は、蹴りが当たった脇腹を手で押えて噎せた。
「おい、大丈夫か…っ」
何とか頷いた嬉野はそれでもまだ悔しさに突っかかろうとする。体を労りながらも羽交い締めてなんとか押えつけた。
「やめとけ、」
「…ッ」
ようやく大人しくなった嬉野に言い聞かせていたらこちらを横目で窺っていた七山が冷めた口調で催促する。
「こねえの?」
「…っせぇな…」
来ないならバラしちゃうぞというニュアンスの含んだ言葉に苛立ちながら、支えていた手をそっと離して仕方なく七山の方へ行く。嬉野はまだ諦めなかった。
「俺も、行きますッ」
その声量に今度こそ鼻で笑った七山は吐き捨てる。
「お前はお呼びじゃねえんだよ」
「…総長一人で行かせられるわけ、」
「俺に一撃も当てられないような雑魚が付いてきて何になるんだよ、自覚しろ」
「ッな、」
いやいや、七山が異常に強えだけだろ。また揉め出しそうな雰囲気にさっきから沸点を行ったり来たりする嬉野をもう一度なだめた。
「いいから、お前は怪我人の手当でもしてろ」
「でも」
「大丈夫だって。別に死にゃしねぇよ。あ、帰りが遅くなっても勝手に乗りこんでくんなよ。面倒な事になるからな」
「…」
「おい、返事」
「……うす…」
まだ不安要素は拭いきれてないが嬉野達がちゃんと「待て」ができるやつらだと信じて俺は職員室を出た。それでも嬉野の行動が少なからず嬉しかったことを自覚して、複雑な溜息が漏れた。
七山ととりまき達に囲まれながら三階にあがってついた先はファービー領ド真ん中の教室。廊下に群れる不良達の視線が痛え。七山が先頭に立って躊躇いなく教室のドアを開けた。
「そーちょー、連れてきたっス」
とりまきに背中を強く押されて躓きながらも室内に入った。部屋は明るくて思ったよりも小奇麗だ。教室の両端に何台ずつか机が積み上げられ、中央には校長室あたりから拝借してきたであろう黒い二人がけのソファが二対並んでる。
その下にはご丁寧にちゃんと埃っぽいカーペットが敷いてあって、教室の隅にはその部下の不良が各々椅子に座ってこちらを凝視してくる。俺はその男達の顔を見ながら疑問が浮かんだ。
ここには総長と七山の次に先生達に叩きこまれたファービーの幹部、No3とNo4がいない。ファービーは総長と三人の幹部から成り立っているらしいから重役がこの場に居ないのが不思議だ。ま、居ない方がすっごくありがたいんだけどな。
もう一度部屋の中央に焦点を戻したら、ソファに座っていたファイアービートの現総長は七山の声と物音にゆっくりと顔を上げて俺達の方に視線を合わせた。
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