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虎視眈々
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side 宮古
俺の目の前で喘ぐ獣。
まさかこんな状況になるとは夢にも思っていなかっただろうな。…可哀想に。
藍色の髪に目つきの悪い三白眼、特徴的な八重歯。薄い唇からはその己の牙で噛み切ってしまった傷口からじわじわと血が滲んでいる。ついさっきここへ来た時の精悍な面影は微塵も感じられない。
すっかり熱にうなされ、半開きの唇からは言葉にもならない呻き声が漏れるだけだ。
この一匹狼に目を付けたのは、コイツが入学して間もない頃からだった。ずば抜けるような体格の良さに鋭い顔立ち、何でも軽々とこなしてしまいそうな手足の長さと綺麗に染まった髪はこの不良校で目立つには充分な容姿だ。
実歴は無いものの「手を出せば逆襲に合う」などと、どこからともなく噂が流れ、此方に畏怖を与えさせながら御法はどこのチームにも入ることは無かった。
俺達はあえて勧誘をせずに待っていた。
それは他のチームも同じだった。なぜならこの男が3つの中でどれを選ぶのかを「待ちたかった」からだ。
かいかぶりすぎたかもしれないが、孤独な狼は一体どこのチームと群れたいのかと、まるで抽選に当たるかを待つように。御法が入ったチームは他のチームよりも有利になる、そんな雰囲気が立ちこめていた。
だからと言って我がファイアービートには先代から続いている伝統がある。俺個人が勧誘しに行きたくともたった一人欲しさにトップが動くというファービーのプライドがそれを許さなかった。
この男が自ずから入ることを望めばそれなりの地位は与えるつもりだったし、即戦力になることを期待していた。
俺としては御法が遅かれ早かれ、この一年以内にはマックスやダンディライトではなく、このファイアービートに入るのではないかと自負していたが悉く裏切られてしまった。
一方の狼は、気がつけばいつの間にか全く視野にいれていなかった先公の猟犬と化していたのだ。アイツ等が手懐ける為にどんな手を使ったのか…少なくともこんなやり方では無いだろうがな。
自嘲し、御法の顎を指先で擽りながら痴態を晒す姿を目に焼き付ける。七山の性癖には理解しがたい部分があるし、俺もからかいはするが決して男がイケるわけじゃない。この手のタイプで遊ぶという発想すらなかった。…のだが。触ってみれば面白い。意地っ張りな所とか、それでもそれなりに怖がる所とか。
「ッう!ッツ…」
苦痛に滲む涙はとろとろと頬を滑っていく。心地いい支配感。
「も、いれちゃていいよなァ」
御法の窄みを丹念に解していた指を抜き去り七山は自分のベルトのバックルへ手を伸ばした。余裕綽々に見える七山だが、久しぶりのご馳走(?)を前に舌なめずりをして意地汚い。それを知り御法はあからさまに身体を強張らせた。
恐怖に打ちひしがれるのは当たり前だ。命令でノンケが嫌々襲いにくるのとは違い、相手は御法を「犯したい」と思った変わり種だ。容赦はしないだろう。
秋ノ宮の案に乗り命令を下したのは俺だ。大層な同情はしないが少なからずは憐れむ。
そろそろ、挿入を前に聞けるか。「ファービーに入りたい」と。
七山の手が動く前に狼の顎を掴んだ指を更に此方へ引き寄せる。間近で小さく戦慄きおびえた瞳と目が合った。
言え。
入りたいと。
そうすれば助けてやる。
念じた瞬間、突如と御法の目つきが変わった。俺の念が届いたわけではない。鋭く、野生を思い出した獣じみた眼差し。睨むような視線は瞬きの間に起こったことで、再び御法の瞳を見れば伏し目がちに睫毛が被さっていた。この男が次にとった行動はこの部屋に居た誰も想像のできないものだった。
不意に距離を詰めてきた御法は躊躇いつつも俺の唇に自分のそれを押し当ててきた。
キスの真意が分からず、呆然とする俺にどういう風が吹いたのか、そのまま舌先を押し入れてキスを深めようとする。この先がどうなるのか、あえて口付けを受け入れた。
「っふ、…はぁ…ん」
「…ん」
覚束ない舌が無理して俺の舌先を擽る。先程よりも随分にも増して色っぽい顔をしながら御法はキスに夢中になっているような。視界はこいつの顔で埋まっているが気配で分かる。秋ノ宮含め、全員が状況についていけずに固まっているはずだ。かく言う己も何なのかよく分かっていない。
ついさっきまで嫌々啜り泣いていた御法が急に積極的に食らいついてきているのだ。
貪欲に唇を貪るのを一旦止めて、御法は首だけで振り返った。更に後ろでは七山がぽかん、と間抜け面を晒している。イケメンが台無しだな。
奴からすれば、捕まえてきた獲物が己では無く俺を選んだと思っているはずだ。
…これは面白い。
御法は口付けだけでは無くじゃれつく犬のようにご丁寧に頬や顎先まで舐めてくる。どんな心変わりか、ついつい獣に流されかけた時、御法は動いた。
ガムテープで固定された腕を掛けたまま俺の首を軸にぐるりと体を横へずらしていき、あっという間に背後をとった。反射的に危険だと判断し身構えたが遅い。そのまま強盗犯のように息の根を止めない程度の力で首を腕で締め上げ脅しをかける。固まっていた周囲はこの時ようやく我に返った。
「動くな!!!」
咄嗟に近づきかけた護衛と七山に向かって見せつけるように首を絞める。その動きを見て悪態をつきながら渋々後退せざるを得ない。
まるで悪女のように、油断させその隙に背後をとるという古典的な手法だが通用したのもまた事実。
息を乱しながら唸る声は震えている、俺は狼の心音を背中で聞きながらどうにかにやつく顔を抑えていた。締まる首は勿論苦しいが、この後の展開がどうなるのか、見物じゃねえか。
御法は俺の右耳に唇を寄せ一度だけ耳殻に歯を立てた。
「おい…その撮ってるビデオ、寄越せ」
唖然とカメラを構えていた不良は慌てて御法と秋ノ宮を交互に見る。秋ノ宮が何か言いかけたが先に御法が制した。
「おい、さっさと渡さねえとこいつの耳、無くなんぞ」
腕に力を込めたまま、鋭い八重歯が再び俺の耳殻に痛く食いこんでいく。さすがに背筋が冷えたが、それでも興味は削がれていない。
真っ青な顔でしどろもどろとカメラを持つ部下を横目で見返してやった。
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