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爪
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保健委員→ぼんやり眼鏡
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保健室の前に立つ人影に気づいてしまった。
・・・急いでいるんだけど。
気になってしまったんだから仕方ない。
お節介なのは承知の上だ。
「先生、いませんか?」
話しかけながら上履きの色を見ると、同級生。
あ、隣のクラスの米田君だ。
「・・・うん。いなくて」
「あー・・・って、血! うわっ」
米田くんの手から流れる血が、廊下に赤模様を描いていた。
結構な出血量。
「入って」
「え?」
「オレ保健委員だから」
だからといって、別に何の特権があるわけではないけど。
脱脂綿や消毒液の場所くらいは分かるし。
手をかけてみれば抵抗なく開いた扉の中に、米田くんを招き入れた。
「どこで切ったの?」
「教室、カッターの刃を触っちゃって」
「そっか、じゃあ、砂とかは入ってないよね」
「多分」
右手の小指の第二関節の辺りがすっぱりと切れてしまっている。
手を高く固定させて、ぎゅっと指の根元を強く摘む。
「ここ、摘んでて」
「うん」
本人に止血させておいて、周りを汚す血を大量の脱脂綿でふき取った。
そこまで深くはないと思うけど、自分で判断するわけにはいかない、よな。
次第に冷静になって、強引な自分の態度が恥ずかしくなってきた。
血を見て興奮してしまったみたいだ。
「えーと・・・やっぱり先生呼んできたほうがいいかな・・・」
「あ、今友達が呼びに行ってて」
「あ、そうなの?」
「うん」
そっかあ・・・と答えながらも恥ずかしさに顔が赤らむ。
「ごめん、無理やり」
「ううん、そんなこと。ありがと」
はにかんだ様に笑う米田くんを直視できずに、怪我をした手を見る。
きれいな手なのに、跡が残っちゃうのかな。
何だか勿体無い。
「・・・爪」
「あ」
指の先に灯るピンクの爪が、親指だけ歪な形をしているのを見つけて思わず呟いていた。
「・・・痛くない?」
「うん・・・ちょっと・・・」
噛み癖というのだろうか。
ぎざぎざな切り口のまま、かなり深爪になっている。
その痛々しさに、なんでだろ、胸が切なくなった。
友達ですらない俺なんかが、口を出せることじゃないんだけど。
その時、先生がやって来なかったら、俺は米田くんになんて言っていたんだろう。
とりあえず、米田くんと友達になろう、と思う。
その優しそうな笑顔も。
爪を噛むその理由も。
気になって仕方ないから。
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